【8】5Gへの米国の態度と戦略(7)米国の5G状況とデジタルセキュリティの課題

DIBの提言書では、直に5Gの政策に関係する米国政府や民間企業について取り上げている。

直に5G政策に関係する米政府機関としては、

・ホワイトハウス

ホワイトハウスの主な役割は政策の統合である。DIBの提言書は、オバマ政権の末期に至ると政権内で5Gに対する関心は高まり、2016年にはホワイトハウスは4億ドルでAWRI(先端ワイヤレス研究イニシアティブ;Advanced Wireless Research Initiative)を支援・立ち上げを計画した…これはNSF(米国家科学財団)のPAWR(ワイヤレステストプラットフォーム;Platforms for Advanced Wireless Research)の設置につながった、とした [1]

Platforms for Advanced Wireless Research (PAWR) Program Overview

NSF(米国家科学財団)が設立したPAWR(ワイヤレステストプラットフォーム;Platforms for Advanced Wireless Research) YouTubeで動画より

Platforms for Advanced Wireless Research (PAWR) Program Overview

NSF(米国家科学財団)が設立したPAWR(ワイヤレステストプラットフォーム;Platforms for Advanced Wireless Research) YouTubeで動画より

トランプ政権の下では5Gへの関心が高まり、ホワイトハウスの役割が一層重要になった。たとえば、彼の元でのホワイトハウスは5Gの重要性を強調、明確なロードマップを作成するための一連のイニシアティブと指令を出した。なお、その中には、中国に対抗するために、国有化5G構想のメモを用意した補佐官がでている。しかし、これは米FCCや他の政府省庁、そしてメディアや産業界からの猛反発がおきた。そのため、トランプもこのメモを正式に否定した。大統領は、その理由を「政府が投資し、政府が主導する5G計画は、民間が主導する場合に比べ、品質も速度も劣るから」とした。米国では、官製の5Gに対しては強い拒否感があった。

話をホワイトハウスの動きに移すと、2018年9月、ホワイトハウスは5Gサミットを開催した。このサミットには産業界と政府のリーダーが集まり、5Gの将来の方向について議論した。同時に、米国が5Gの開発と実用化に遅れをとっていることを認め、この後の官民の協力促進をおこなった。この後、上記大統領覚書「アメリカの未来に向けた持続可能なスペクトル戦略の開発に関する大統領覚書」につながった。

 ・米FCC(連邦通信委員会)

DIBの提言書で、米FCCは(先に述べたように)、3G/LTEや4Gのスペクトルの割り当てとエコシステム構築に関して4Gで大きな役割を果たしてきたとしたが、(中国に先行されてきたとしても)5Gの開発とフィールド化において同様の役割をはたしている、とした。提言書では、「2018年後半に米FCCが5Wの開発と展開を促進するため、5Gスペクトルオークションを開催、28 GHz帯域を開放」した。この後、2019年3月には2番目のオークションでは、24 GHz帯域が利用可能とした…何れもミリ波帯域。

同提言書では「米FCCが2018年9月に包括的な5GFAST計画(Facilitate America’s Superiority in 5G Technology Plan:5G技術におけるアメリカの優位性計画)を高く評価した…スペクトルの目標に関しては、米FCCはミリ波スペクトルのバンドを販売するために2019年に更に3つのオークションを開催することを計画しており、低および中帯域スペクトルを開放するためのオプションを理解するための研究を始めた」と付け加えた。

なお、米FCCのパイ(Ajit Pai)委員長は2019年11月の米外交評議会(CFR)の会合に出席し、「米国が5G競争で勝利している」とし、5GFAST計画を進める、とした。事実、2019年12月に、米FCCはこれまでほとんど使用してなかった5.9GHz周辺のバンドをオープンにした…これについては、米関係者から利点のみで、良いアイデアであると好評である[2]

更に、同提言書では「米FCCは、インフラストラクチャの目標に関しては、連邦、州、および地方レベルでのスモールセルのレビューの速度を上げて、5Gの迅速なフィールド化が促進できるよう取り組んでいる…規制の近代化という目標に関して、米FCCは既存の規制を調整し、5G展開をサポートする新しい規制を作成することに焦点を当てている…たとえば、ネットワーク機器のルールを更新して、より迅速なセルフィールド化(cell fielding)を可能にし、米国のネットワークに対する国家安全保障上の脅威になる(中国)製品の販売を防止している」とした[3]

 ・米商務省(Department of Commerce)

DIBの提言書では、「他の5Gに関係する重要な機関としては、商務省の国家電気通信管理庁(NTIA:National Telecommunications and Information Administration)」がある。NTIAは、米経済及び関連技術の進歩とスペクトルの規制に関する政策を担当してきたが、上記大統領覚書が出た後では、「スペクトル管理を改善し、新しい技術を作成するための研究開発の優先順位を特定」し、連邦政府機関のスペクトル運用ニーズを集約するための「国家スペクトル戦略(National Spectrum Strategy)」に着手してきた[4]

事実、2019年の9月にはNTIAはスペクトル再利用に関する最初の年次報告をだしており[5]、その一週間後には「米のスペクトラムの未来に向けて」のシンポジュウムも開いている。NTIAは、先のトランプ大統領の覚書により発足した「新たなスペクトラム戦略タスクフォース(Spectrum Strategy Task Force)」のメンバーたちと協力し、米国家戦略を実施した[6]

なお、DIBの提言書でもDoDは「スペクトルの共有プロセスを管理」するためにも、NTIAと緊密に連携していく必要がある、とアドバイスしている。

 

DIBの提言書での指摘

DIBの提言書では、「中国が5Gの導入で米国より先行した場合、軍事・経済・安全保障・産業的なリードをするのではないか」、との懸念を強くにじませた。本報告書ではこれ以上、立ち入らないが、大意「米国がいくら努力しても、世界ではファーウェイの機器を使ってのダーティ(不正)なネットワーク網が構築される可能性が高い。米国(その同盟国)のデジタルトラフィックはこれらのネットワーク網を使わざるを得なくなり、北京の情報機関が自由に読み取ったり迂回させたりできだすのではないか」…そのため、DoDが主導で「より機密性の高くデータの防衛、つまり完全防衛(lockdown)する戦略の開発・推進する必要がある」、としたことは付け加えておこう[7]

なお、ダーティなネットワークの中でのデータの完全防衛の必要性についてはこの後で取り上げるサンガーの提案の中でも指摘している。このバックドア問題も含めて、デジタルセキュリティは、軍事関係者だけでなく、自由な経済・社会・産業・教育・科学を進めるもの(個々人、国家、組織、企業)にとり、避けることができない課題になった。

 

[1] https://www.nsf.gov/cise/advancedwireless/

[2] https://www.eff.org/ja/deeplinks/2019/12/fcc-opening-some-very-important-spectrum-broadband

[3] preventing the sale of network equipment from companies that pose a national security threat to U.S. networks。FCCは、3および4 GHz帯域の中間に位置する500 MHzのCバンドダウンリンクスペクトルのより柔軟な使用を可能にするための手続きもあわせ開始した。

[4] https://www.ntia.doc.gov/press-release/2018/ntia-seeks-comment-development-national-spectrum-strategy

[5] https://www.ntia.doc.gov/press-release/2019/ntia-releases-first-annual-report-spectrum-repurposing

[6] https://www.benton.org/blog/new-national-spectrum-strategy

[7] スノーデン事件後、オバマ大統領が任命したintelligence(メディア、産業界、学者で構成)委員会は、データの安全を保証する暗号化の大幅強化を求めた。つまり、委員会は米国では「いかなる形であれ、一般的に入手可能な商用ソフトウェアを破壊、弱体化、または脆弱化しない」ことを主張し、「暗号化の使用を増やし、データの保護を強化するために米国企業に促す」と勧告した。皮肉にもオバマ政権はこれを重視しなかったが、トランプ政権のバー司法長官はこの必要性を強調している(後で述べるdirty(不正)なネットワーク時代対策に役立つ)。