<連載シリーズ>繁栄へ導く知のシステムを模索するー 第2回 全体として機能させる「システム」の力 – 中国型、米国型、そして日本型を考える
前回は、米中関係の変化を手がかりに、中国が自信を深めている背景を考えたい。
なぜ中国は、ここまで急速に力を伸ばせたのだろうか。
では、その自信はどこから生まれているのだろうか。
現在の中国経済は、かつてのような高度成長を続けているわけではない。不動産不況、人口減少、地方政府債務など、多くの問題も抱えている。かつて語られた、「中国経済がアメリカを抜き、世界最大の経済になる」という予測も、現在ではほとんど語られなくなった。しかしその一方で、中国の技術発展はなお続いている。
EV(電気自動車)、太陽光パネル、電池、ドローン、ヒューマノイド(人型)ロボット、高速鉄道――。かつて「安価な模倣品の国」と見られていた中国は、いまや多くの分野で世界最大級の生産国となり、一部では欧米企業を上回り始めている。品質面でも急速な改善が進んでいる。
もちろん、AIや最先端半導体、大学研究、金融市場、軍事力などでは、依然としてアメリカの優位は大きい。それでも、中国はなぜここまで強くなったのか。
最近、アメリカの研究者や政策関係者の間では、中国を見る視点が変わり始めている。
以前は、「中国の発展は政府補助金や外国技術導入によるものだ」という説明が中心だった。もちろん、それは重要な要因でもある。しかし現在では、「それだけでは現在の中国を説明できないのではないか」という議論が広がり始めている。
彼らが注目し始めているのが、中国の“システム”である。
ここでいうシステムとは、単なる制度や組織ではない。もともと system という言葉は、「複数の要素が結びつき、一つの全体として機能するもの」を意味している。つまり重要なのは、個々の企業や技術ではなく、研究、人材、資金、製造、市場、政策、インフラなどが、どのようにつながり、相互に影響を与えながら動いているか、という点である。
現在、米国側で新たに注目され始めているのも、まさにこの「全体としてのシステムの力」である。
中国では、EV、電池、レアアース、AI、半導体、大学、国家資金、共産党などが相互に結びつきながら動いている。いわば、それぞれが独立して存在するのではなく、相互に連動しながら動く「インターロッキング(相互連結型)」のシステムとなっている。さらに政府が長期目標を定め、それに合わせて研究、人材、資金、産業政策、市場づくりが連動する。
例えば、中国は数十年前からレアアース(希土類)産業を国家戦略として育成してきた。現在では世界の供給網で圧倒的な存在感を持っている。EVや太陽光発電でも、中国は単に工場を増やしただけではない。電池、送電網、素材、通信、インフラまでを、一つのシステムとして発展させてきた。
さらに巨大な国内市場を利用しながら、企業同士を激しく競争させ、その中から強い企業を育ててきた。つまり中国では、個別企業ではなく、「国全体」が連携しながら改善を続けているのである。
もちろん、この仕組みには問題もある。党の統制が強すぎれば、自由な発想や多様な挑戦が生まれにくくなる危険もある。
しかし現実には、AIなど、本来は自由な発想が不可欠と考えられていた分野でも、中国は急速に力を伸ばし始めている。そのため現在では、「中国は単なる模倣国家ではなく、新しいイノベーションを生み出す国家へ移行し始めているのではないか」という見方さえ現れ始めている。
では、アメリカはどうだったのか。
実は、現在のアメリカの強さもまた、相互の民主主義を大事にした“フェデレーテッド連携(Federated:有機的連携)型システム”から生まれたものだった。
そこでは、中国のように国家がすべてを一元統制するのではなく、大学、企業、投資家、政府、軍、研究機関など、多数の主体が分散的につながりながら、競争と協力を繰り返してきた。
ただし、これは20世紀半ばまでのアメリカの大量生産型・トップダウン型システムとは大きく異なる。この変化の背景には、日本型システムの存在があった。
第二次大戦後、日本の製造業は、品質管理、現場改善、人材育成、長期投資、政府の産業政策を組み合わせた「日本型システム」によって急成長した。 そして1980年代、日本企業は世界市場で圧倒的な強さを示し、「Japan as No.1」とまで言われた。同時にアメリカでは、日本脅威論や日本叩きも広がった。しかしその後、アメリカは、日本の成功の背景に、自国の統計学者デミングが提唱したPDCAサイクルがあることに気づき、その考え方を取り込み始めた。
PDCAとは、Plan(計画)、Do(実行)、Check(検証)、Action(改善)を繰り返しながら、継続的に改善を積み重ねる考え方である。単に上から命令するトップダウン型とは異なり、現場そのものが学び、修正し、改善を続けていく点に特徴があった。実際、この仕組みは、日本の製造業に圧倒的な品質向上と競争力をもたらした。そしてアメリカは、日本の成功を通じて、この「継続的改善システム」の強さを再認識したのである。
ただ、その後、日本とアメリカでは大きな違いが生まれた。
日本がPDCAを主に製造業、つまり「モノづくり」の改善へ適用したのに対し、アメリカは、その考え方をIT、ネットワーク、クラウド、デジタル分野全体へ拡張していったのである。
この違いは極めて大きかった。
アメリカは、継続改善システムを製造業だけでなく、情報、ソフトウェア、ネットワーク空間全体へ適用していった。そして、フェデレーテッド連携を重視した「デジタル推進型システム」を完成させた。その結果、シリコンバレーを中心に、
インターネット
クラウド
スマートフォン
AI(人工知能)
などの新しい産業が生まれ、それを基盤とする巨大企業群が次々と誕生していった。
つまり、日本のシステムは「製造改善」で効果を発揮していたが、アメリカはそれを「デジタル推進」で効果を発揮するシステムへと拡張させたのである。
しかし、アメリカ内部では多くの問題も起き始めている。
本来、デジタル推進型システムは、分散的競争、長期投資、人材循環、大学研究、ベンチャー育成
などが有機的につながることで強さを発揮していた。ところが、長年の成功の中で、短期利益重視、金融偏重、製造基盤の弱体化、国内分断などが進み、システムそのものに歪みが生じまた。そのため現在のアメリカでは、「中国に追い上げられているのは、自分たちのシステムが弱くなっているからではないか」という危機感が強まり始めている。その一環として、バイデン政権はCHIPS法やScience Actを成立させ、半導体、研究、人材、製造基盤の立て直しを進めようとしている。
しかし現在、アメリカで議論され始めているのは、これら単なる補助金政策や部分修正ではなく、自分たちが再び学習し、改善し、連携できる「新しいシステムそのもの」の再構築ではないか、という議論なのである。
中国の事情を再度確かめておこう。
中国は、改革開放直後に日本型の製造改善システムを徹底的に学び、その後1990年代以降には、シリコンバレーを中心とするアメリカ型デジタルシステムを徹底的に学んだ。
そして、それらをもとに党主導の国家統合型システムへと組み替えていった。
現在の中国の自信の背景には、こうした長期的なシステム形成が存在しているのである。
つまり、現在日本が問われている問題は、個別技術の優劣だけではない。社会全体として、学び、改善し、次の技術へ適応していく“システムそのもの”なのである。
では、日本はこれからどうすべきなのか。
日本もシリコンバレー発のインターネット、クラウド、デジタルの波に直面した。しかし、アメリカ型デジタルシステムの取り入れが十分ではなかったため、これらを部分的には導入できても、デジタル革命(DX)といった全体的なものを主導することはできなかった。
その結果、日本経済と技術は世界の中で相対的に存在感を低下させていった。
そして現在、その先にAI革命の時代が到来しようとしている。
AIは単なるデジタル技術の延長ではない。しかし、その発展には、クラウド、半導体、データ、ネットワークなど巨大なデジタル基盤が不可欠である。
このままでは、日本はDX以上に、次のAI時代でも経済や技術で後れを取る可能性が高い。
では、日本は米中どちらかのシステムをまねし、その後を追えば良いのだろうか。おそらく、それだけでは日本は再び世界で羽ばたくことはできない。 必要なのは、日本自身が世界で最初に築き上げた「改善を続けながら成長するシステム」を、AI時代に適応した新しい形へ進化させることである。そして、その新しい形は、日本単独ではなく、アメリカや欧州、アジアの信頼できる国々と学び合いながら進化させていく可能性がある。
次回は、日本とアメリカで始まりつつある、新しい「学び合うネットワーク型システム」の可能性について考えてみたい。

