【3】5Gへの米国の態度と戦略(2)トランプ政権の見方を示す報告書

トランプ政権のもと、5Gに関しては実に多数の資料(報告書、また調査にもとづいた提言書)がでた。資料には、「米国は5Gで遅れた」、「もはや、先行した中国に追いつくことができないといった悲観的なもの」まであるが、ここでは、両極端なものを避け、以下を引用、紹介する。

1.業界団体のCTIA(Cellular Telephone Industries Association)[1]の2018年と2019年の資料

2.DoD(米国防総省)のDIB(防衛イノベーションボード) [2] の「5Gエコシステム:DoDにとっての危機とチャンス、The 5G Ecosystem: Risks & Opportunities for DoD」[3]

3.アスペン研究所の戦略グループ(ASG)の著書“大国への葛藤; 21世紀の米中関係”[4]、のサンガー(David E. Sanger)の論文“5Gの管理:米、中の技術支配への戦い;  Managing the Fifth Generation: America, China, and the Struggle for Technological Dominance”

 

1.CTIAの資料

CTIAはワイヤレス(無線通信)関係者の業界団体である。活動目的は、関係者の調整と親和をはかることで、より重要な目的として5G(次世代無線通信)の「導入、促進と普及、教育(関係者の教育し、パイを広げる)」がある。このため、資料は専門家にあてたものより、より広い層へのメッセージとなっている。

 

2.DIBの提言書

DIBの対象はDoD(国防総省)の首脳、並びに安全保障関係の政策決定者である。なお、日本では、この存在はあまり認識されていないが、DIBはDoDへの最先端テクノロジーの導入をアドバイスすることを目的とした委員会である。つまり、5G(次世代無線通信)やAIといった汎用技術は、軍の命令系統・統合体制、あるいはロジスティック、また、DoDの役割や概念自体をも次の時代に変容させる、がある。ただ、この汎用技術やそのアプリケーションの開発はDoDやその関連企業が行っているのではなく、巨大テク企業とその系列企業、その他、シリコンバレー等でのベンチャーである。一方、DoDの関係者はこの動きには疎いし、巨大テクやベンチャーの文化だけでなく、言葉に不慣れである。

https://innovation.defense.gov/

防衛イノベーションボード(DIB)は、米国防総省(DoD)に最先端テクノロジーの導入をアドバイスすることを目的とした委員会である。 https://innovation.defense.gov/

DIBはこれら弊害の解消のために正式に2016年に発足した。メンバーは12名で、これまでデジタルを発展させ、イノベーション等で実績をあげたビジネスリーダーやアントレプレナー、あるいは研究者が就任した。議長には、グーグルの元CEOのシュミット(Eric Schmidt)[5]、本部はシリコンバレーのマウントビューに置かれ、支所はボストンやワシントンDCにもある。なお、PwCの調査にとると、巨大テク産業の研究費が軍事研究を行う軍事産業に比して膨大である。

詳細は下記を参照されたい。

U.S . Tech Companies Outspend Defense Contractors on R&D

Independent Task Force Report No. 77, Innovation and National Security Keeping Our Edge

By James Manyika and William H. McRaven, Chairs Adam Segal, Project Director

https://www.cfr.org/report/keeping-our-edge/pdf/TFR_Innovation_Strategy.pdf

 

付け加えると、巨大テク産業やベンチャーとの関係促進のために、DoDはDIU(Defense Initiative Unit)という機構も発足させた。この機構の役割もDoDのプロジェクトでの巨大テク産業やベンチャーとの結び付けにある。内容は単に先端技術にとどまらず、経営・契約スタイル、あるいは手法・言語や革新的なソリューションの追求までを含めている[6]

 

3.ASGの資料

ASG(Aspen Strategy Group)はアスペン研究所の戦略グループである。グループの名誉議長はスコウクラフト(Brent Scowcroft)、彼はキッシンジャー(Henry Kissinger)とパートナーとして働いた卓越した米国の戦略家の一人である[7]。現議長はハーバード大の政治学者ナイ(Joseph Nye)。本部はワシントンDCにあるが、この種の会議はコロラド州アスペンのセミナーハウスで行なわれる。参加メンバーはいわゆる専門家に加え、経済人、議会人、元政府高官、また、海外からも参加(先に述べたオーストラリア第26代首相のラッド(Kevin Rudd)ら)した。ASGは「米国の国益には中国との競争において優位性の確立」の必要があるとし、彼らが取り上げた4分野は;

〇経済力と貿易

〇セキュリティ(インド太平洋における軍事・戦略)

〇デジタルテクノロジー(5G、AI)

〇来るべき価値観、

である。

 

 

[1] 米無線通信業界を代表する団体。1984年に設立され、501の非営利会員組織で、無線通信事業者とサプライヤー、および無線製品とサービスのメーカーとプロバイダーの代表。ワシントンD.C.に本部。

[2]  デジタルテクノロジーのイノベーションとベストプラクティスを米国防省にもたらすために2016年に設立された組織。本部は加州マウンテンビュー。ボストンとワシントンDCにも支所。

[3] https://media.defense.gov/2019/Apr/03/2002109302/-1/-1/0/DIB_5G_STUDY_04.03.19.PDF

[4] https://www.aspeninstitute.org/publications/the-struggle-for-power-u-s-china-relations-in-the-21st-century/

[5] シュミットは、2018年米議会が設置した、The National Security Commission on Artificial Intelligence(NSCAI)の委員長。同委員会は、米政府が「主要な国家安全保障上の任務に組み込む成熟技術」として、AIを活用できるようになるまでには依然として大きな課題があるとした。

[6] DoDパートナーおよび企業と緊密・連携し、12〜24か月で結果提供。テクノロジー採用をサポート。

[7] キッシンジャーが国務長官時の安全担当の補佐官。スコウクラフトグループのファウンダー。