【激動の世界情勢と日本の覚悟】第55回(2021/03/16)無名塾(オンライン) 講師:杉山晋輔 前駐米大使

<塾僕武田のコメント>

3月13日にQuad(クアッド)第1回首脳会議が開かれました。Quadは英語で「4つ」の意味で、自由や民主主義、法の支配といった共通の価値観を持つ日本、アメリカ、オーストラリア、インド、この4カ国の首脳が経済、安全保障等について話し合いを持つ場で、今回の会議は、バイデン大統領が大変熱心に進めて来られたと聞いています。ただ、この考え方は米国の戦略ではなく、実は第1次安倍政権の時に安倍総理が、この4カ国での戦略的な対話が必要ではないかという話をされ、第2次安倍政権の日本外交の基本である「自由で開かれたインド太平洋構想」となりました。この間、杉山大使は一貫して、この重要性を関係諸国に話し、アメリカファーストのトランプ政権も“自由で開かれたインド太平洋構想は自分たちのアジア戦略の中核である”と言うまでになったと私は側聞しています。バイデン大統領は、これをさらに一歩進めたことになりますが大使が米共和党だけではなく、民主党リーダーたちにもQuadの重要性を説いて回った、その結果だと思っています。

21世紀の世界は、民主的体制と専制的体制の凌ぎ合いに直面しています。バイデン政権は新たな対中基本政策を構築中です。これは決して、中国の封じ込めや敵対視ではなく、中国との戦略的競争体制をどう構築するかという、大変長い競争を覚悟してのことです。米国は、これを単独で行うのでなく、同じ価値観を持つ日本、インド、オーストラリア、あるいは欧州各国にも呼びかけていると思っています。

 私は、この時代の基本戦略を日本も再構築する必要があると思っています。日本のアメリカとの関係、Quadをはじめとする民主的な体制との関係、それだけでなく、中国との関係も私たちは考える必要があります。中国は様々な悪口を言われていますが、国家戦略をもち、この20年、30年かけて大変な努力をしたこともまた事実です。中国の戦略からも学ぶべきものがあるのか、日本の現体制に問題があるならば、どのような国家戦略をたてる必要があるのか、もう一度、私たちは基本的な政策に立ち返る必要がある。国の役割、民の役割を考え直す必要があると思っています。日本の産業界は本当によくやられていると思います。それに対して国は、全体的な戦略の構築が必要になる。研究開発においても、国が資金を出さない限り意味がない。いくらトヨタをはじめとする大企業が金を出しても、基本的なイノベーションを促す研究につながらないケースが多いわけです。理研に資金を出す、あるいは産総研、東大、京大、筑波、名古屋大学に政府が資金を注ぎ込み、次の時代の“公共財”となる研究をおこなう、そういう体制がもう一度日本に必要だと思っています。