【18】AI(人工知能)への米国の態度と戦略(5)AI大国の衝突の行方

アリソンのAIでの米中比較

アリソンの話にもどる。彼は先の「AI大国の衝突」の中で、CCP(中国共産党)のリーダーたちが企業ぐるみのAIの発展に腐心している中国を総括し、これへの米国の対応を提唱した。それらは、

Destined For War by Graham Allison

邦訳は『米中戦争前夜――新旧大国を衝突させる歴史の法則と回避のシナリオ』 藤原 朝子 (翻訳)、2017年、ダイヤモンド社

米国は中国の挑戦に目覚める必要がある。それは自分たちが、深刻な競争相手に直面しているという認識である。本来、競争は米国の中核的価値で、また、科学とその応用は、研究者(チーム)が競争で進歩する。

・また、米国の競争はスマートである必要がある。14億人を有した中国は一見ML(マシンラーニング)が中心の現在のAI競争では優位にあるかに見える。しかし、米国は、次の時代のAI(ネクスト AI)の開発競争に世界(77億人)からトップ人材をもとめて、行うべきである。事実、米国企業は既に世界のAIのトップ人材100人のうち半数以上を採用している。一方の中国は漢民族の閉じた社会である。たとえば、昨年度はわずか1,000人しか中国人に帰化できてない。この点、米国は(現政権下でのビザ等が喧騒されているが)開けた社会で、開発は決定的な優位にある。

・AIのエコシステムでの競争も米国は圧倒的に優位である。言語の英語は、科学、ビジネス、およびウェブの普遍的な言語として使われているが、中国は、この英語に頼るか、自国内の範囲でのシステムにとどまるのかの選択に直面している[1]。が、事実、地球上の77億人の半分は英語を話す。

・なお、アリソンは、米国がリーダーシップを維持するという強い意志が必要とした。スマートな競争とは、中国との厳しい競争を保ちながら、同時に、協力の必要性を認識しなければならない、である。これらは矛盾するように思えるかもしれないが、ビジネスの世界では、それは通常のことだした。また、彼はこの協力は米国内に限定するだけでなく、自由体制の未来を強く指向する同盟国・友好国を含めてのことだした。

 

「Tech10」の提唱

先のアスペンのASG(アスペン戦略グループ)の会合で、AIを始めとする分野で如何に「中国とのテクノロジー競争に勝つか」を論じたマニュエル(Anja Manuel)らはその論文のサブタイトルを「競争、闘争、そして協力(contest, compete, and collaborate)」と適切に表現した[2]

この中で、マニュエルらは「AI等のテクノロジーでイノベーションを育むエコシステムづくり」には、国内だけでなく、同じ価値観をシェアする同盟国・友好国とともに進めることが必要とした。そして、米国にはその経験と実績がある…「米国は第二次大戦後に、WTO、国際通貨基金、国際原子力機関などの国際機関を含め、いわば国際的エコシステムづくりを主導・創成した。そのために、米国は多大の資源と時間を投じたが、それが米国のエコシステムを高め、十分にそれらは報われた」、と。

彼らは、具体的には、「Tech 10」と呼ぶグループを結成に米国がリーダーシップを発揮し、デジタルテクノロジー開発、使用、およびアクセスを進める体制づくりが必要であるとした[3]

 

[1] シンガポールを小さな第三世界の都市から世界で最も成功し繁栄している貿易ハブの1つに変えるため、かつてリー・クアンユーは英語を第一言語にすることを主張した。

[2] Anja Manuel, Pavneet Singh with Thompson Paine; How to Win the Technology Race with China

[3] 米国、英国、オーストラリア、カナダ、フランス、ドイツ、インド、イスラエル、日本、韓国。