CET (Critical and Emerging Technologies)と日本の戦略

  この数年の世界は激動に見舞われているが、2023年10月に中東紛争が再燃したことで尚一層その度合が増した。中東紛争は、石油価格や難民問題、テロリズムなどの世界的な課題を引き起こし、米国やEUなどの主要国の関与を深めている。ただ、私たちが看過してならないことは、この激動の中においても米・中・EUあるいは韓国やインド、シンガポールなどの新興国も含めて、次の時代の繁栄のための戦略づくりに取りかかっていることである。彼らの戦略には共通点がある。それは、いかにCET(Critical and Emerging Technologies)を導入するかであり、CETが現在の地政学となっていることである。

 実は、米国でこの戦略を初めて立てたのはトランプ前大統領で2020年に「国家CET戦略」をだしている。CETの内容は、半導体からIOT、量子情報科学、高度通信、グリーンエネルギー、生物工学、AI、サイバー、宇宙の分野を含め20余りである。現バイデン大統領もこの戦略を継承したばかりでなく、さらに強化している。事実、二度の大統領令をだし、CETを再定義してリストをアップデートさせてきた。特に半導体、AI(GenAIを含む)、量子情報科学、生物工学、サイバー(信頼性)、宇宙を重視し、この推進のために政府内組織を再構築し、大学、産業界へさまざまな支援体制を行ってきた。さらに、価値を共有する友好国との強い連携を進めるための体制づくりを進めている。

 EUにおいては、EU域内での体制づくりと並行して、米国を始めとする友好国との連携強化を進めだしている。また、EUでは、AIやブロックチェーン、クラウドコンピューティング、サイバーセキュリティなどのCETに関する法規制や基準を策定し、EU域内のデータや技術の流通を促進するとともに、人権や民主主義などの価値を守ることを重視している。

 一方、中国の習政権は、2012年末の発足以来、中国の若返りを図るためにCETの地政学を戦略にしてきたが、米中摩擦が表面化した2018年以降、より全面的に進めだしている。 2025年までに高度な製造業を実現する「中国製2025」や、2035年までに世界のサイエンスやテクノロジーのリーダーとなる指針として「科学技術イノベーション2035」などの戦略を展開し、AIや5G、半導体、量子情報科学、生物工学などのCETに大規模な投資や研究開発を行っている。

 なお米国は、中国を意識してCET戦略をたてたというより、すでに述べたように米国の繁栄を求めて、であることを付け加えておきたい。

 これに対して日本では、AIや半導体、あるいは量子情報科学、それにサイバーや宇宙も政府が取り上げており、心配は要らないのではないかという声があるかもしれない。しかし、それは錯覚である。このままでは、先のDXの導入時の二の舞を踏みかねないのである。

 第一の理由として、日本では、これらの国に比べてCETの導入に対して政府や産業界、大学など関係者の間で共通のビジョンや目標を持って進めているとはいえない。また、CETを進めるためには、オールジャパン的発想の強調はあまり役に立たないこと、日本だけでは達成不可能なテクノロジーであることを理解する必要がある。これについては、先行しているはずの米国が価値を共有する友好国との連携重視に踏み切ったことで明らかであり、日本は米国以上に連携を重視する戦略が必要になる。このことをしっかり認識する必要がある。

武田修三郎