【シリーズAI】AI基本計画と継続学習国家

昨年12月、政府は「AI基本計画」を閣議決定した。だがこの計画の本質は、巨額投資でAGI開発競争に参入することではない。核心はAIを社会に実装し、評価し、改善し続ける国家的仕組みを構築する点にある。その設計思想がPDCAの並行運用である。Plan(計画)、Do(実行)、Check(評価)、Act(改善)。この循環を止めずに回すことが目的だ。AIは導入して終わる技術ではない。使い、課題を発見し、制度を修正し、再挑戦する。その反復の中で価値が生まれる。

PDCAの源流は、ベル研究所のシューハート、そしてそれを体系化したデミングにある。戦後、日本はこの思想を単なる理論としてではなく、現場で実装した。工場でデータを取り、改善を繰り返し、品質革命を起こした。理論は文化となり、高度経済成長を支える国家規模の学習構造へと発展した。

AI基本計画が掲げるPDCAは、この歴史の延長線上にある。AIの本質は一発逆転ではなく、「学習速度の競争」である。歯車を止めない国が最終的に強くなる。 日本は、DX(デジタルトランスフォーメーション)を十分に完遂しないままAI時代に入った。 DXは、単なるIT化ではない。データに基づく意思決定と業務再設計を通じて組織の動作原理を変える変容である。世界では、2000年代以降、クラウドと無形資産投資を基盤に生産性を高めた。一方、日本ではDXが「効率化の延長」として受け止められ、構造改革が遅れた。能力不足ではない。変化の性質を読み誤ったのである。

そこへAIが加わった。AIは単なる自動化ではない。判断や創造に介入し、社会の知的活動を変える技術である。しかし、AIはDXの基盤なしでは機能しない。日本はいま、DXとAIを同時に進めなければならない難局に立つ。だからこそ必要なのが「AIのトリセツ」である。

第一に、AIは人間の代替ではなく「知の仲間」として扱うこと。

第二に、AIは分野融合を促し、新たな産業を生むこと。

第三に、AIは社会の動作原理を不可逆に変えるため導入はイベントではなく継続運用にあること。

この理解を共有し、現場で使い、評価し、改善する循環を止めないことが現実解だ。 

ここで思い起こすのが経営学者ジム・コリンズの「フライホイール」論である。重い円盤は最初なかなか回らない。しかし押し続ければ回転が回転を呼び、加速する。優れた組織は、劇的改革ではなく、小さな改善の継続で成長する。これはPDCAの思想そのものである。

戦後日本は国家でフライホイールを回した国であった。品質改善→市場評価→再投資→技術革新という循環を止めなかったから成長した。奇跡ではなく構造である。

AI基本計画の意味は、AIを国家の継続学習装置として制度化することにある。重要なのは予算規模ではない。導入、評価、修正、再挑戦を制度として回し続ける設計である。AIとDXは新技術導入ではない。日本を再び「継続学習国家」へ転換する政策である。かつて回した構造を再び21世紀型に再設計できるのか、それが今問われている。

 代表武田 記