【日本における創薬、ベンチャーエコシステム構築における現状と課題について】第68回(2024/03/08)無名塾開催 講師: 和田 道彦 氏(慶応義塾大学病院 臨床研究推進センター・特任教授)

◆講師略歴◆

2019年慶應義塾大学病院臨床研究推進センター着任。2012-2019年Alexion PharmaceuticalsのVP 兼 日本R&D Headとして希少疾患薬開発をリードし4薬剤7適応症取得に貢献。2010-2012年金沢大学の産学連携医療機関である金沢先進医学センターにて、個別化医療センター長として再生医療治療、金沢大学病院人間ドックを樹立。2007-2010年Bayer薬品にてMulti-kinase inhibitorのSorafenibを肝臓がん、腎がん適応症に承認取得(First in Class )。1986-2007年、京都大学、神戸市医療センター神戸中央市民病院、先端医療振興財団等にて肝胆膵外科医として臨床医学・基礎研究に従事。
現在ベルギー Newton BioCapital Partnersの医学開発顧問を兼務。京都大学大学院卒。

◆塾僕武田の冒頭挨拶◆
米国のCET(Critical and Emerging Technologies:重要新興テクノロジー)、あるいはEC(欧州委員会)のKETs (Key Enabling Technologies)の一つに創薬があり、そこでは、創薬・医療関係のベンチャーの立ち上げについての議論がある。
日本ではどうかと言うと、一部の方からは大丈夫、世界で三番目に進んでいるという話を聞いたことがある。しかし、和田先生の話を伺うと現実はそうではなく大変厳しいという。実は、私も同様にそうではないかと考えだしている。創薬・医療系は日本経済の発展の材料の一つになるという点で非常に重要である。
医療は治療にとどまらず、日本全体の力につながるものと思っている。本日出席されている皆さんには、創薬・医療の問題、ひいてはCETについて勉強していただきたい。単なるオールジャパンという日本だけの発想だけではなく、世界と結びついた様々な活動の幅をさらに広げて行かれるよう一緒に考えて頂きたいと思う。

◆塾僕武田のコメント◆
日本がなぜ半導体やDXで遅れたのか、あるいはAIやQIS(量子情報科学)でなぜ遅れつつあるのか考え続けてきたが、本日の和田先生の話と出席の皆さんからのコメントを聞いて今の日本に足りないのは「資金、人、戦略」の3点につきるような気がする。
日本を確実に繁栄に持っていくために大事なことは、「政府の役割、産業政策とそこに投入する資金」である。たとえばバイデン大統領は、2021年と2022年に3つの一連の法案に署名した。それは「超党派のインフラ法案」、「CHIPSとScience法案」、そして「IRAと呼ばれるインフレ削減法」と呼ばれる法案で、それぞれ、約1兆ドル、約2800億ドル、約3690億ドルの資金を投入している。米国は本格的な産業政策を行いだしたということであり、同様にEUでも同じように産業政策と資金を用意しだしている。
日本政府が行ったAMEDは大変良いプロジェクトだと思うが、残念ながら欧米に比べると資金が小さすぎる。やはり、日本政府の産業政策と裏付けるだけの資金が必要で、この流れにぜひ企業も参加してもらいたい。人材については、私も米国の大学で教え日本の大学でも教えてきたが、人づくりでは、それぞれのやり方は異なる。ただし、共通していえることで特に次の時代を背負う人たちをつくるには、実際の現場を熟知した人たちが担って人づくりにあたるべきである、と思っている。ぜひこの点でも、日本の大学に頑張ってもらいたい。
それと「戦略」であるが、日本の戦略作りができる人が要る。和田先生の話ではないが、創薬ということで米企業では、戦略づくりができる人たちが出だした。ぜひ、皆さんには、戦略について考え、戦略作りができる努力をしてほしい。

日本の将来はやっと先行きが見え出したが、本番はこれからだと思う。ぜひ、皆さん方に頑張ってもらいたい。