【11】5Gを巡る中国政府の戦略(2)ファーウェイに対するバックドア疑惑

ポンペオ国務長官の態度

ファーウェイ疑惑への動きは、単にファーウェイ製品の米国政府の調達禁止にとどまらなく、同盟国を含んでファーウェイをその「5G」インフラストラクチャから排除を図る動きがでた。中心はポンペオ(Mike Pompeo)国務長官の国務省である。

たとえば、国務長官は2019年12月2日、ブリュッセルでのEU各国の通信大臣の会合に出席し、スピーチで、大意「5Gワイヤレステクノロジーは、将来の経済と公共サービスのバックボーンを形成する。…各国とも、この新たにつくる5Gネットワークでのセキュリティで一致した行動を起こす必要がある。…非常に大切なのは、信頼できる企業がこれらの21世紀の情報の動脈を構築することで、具体的には、欧州諸国は重要なインフラストラクチャの基礎づくりをファーウェイやZTEなどの中国の企業に与えないこと」と、米国の同盟国・友好国へ、同社製の機器を使わないように呼び掛けている。このスピーチの中で、国務長官は、「ファーウェイとPLAとのつながりがある、あるいはチェコ、ポーランド、オランダでのスパイ活動をした…ドイツ、イスラエル、英国、米国の競合他社はファーウェイから知財を盗まれた。また、アルジェリア、シエラレオネ、ベルギーのような国では贈収賄や汚職行為で告発されている」と指摘した。

The 5G Future by official website of the United States government

米国務省が掲げる5Gの未来へのビジョン。

なお、国務長官は、米ソ冷戦のアナロジーをもとに、「5Gネットワークが必然的に新しいベルリンの壁」をもたらす恐れがある、と警告した。「この壁は物理的なものではなく、仮想的なもの」だが世界を分け、ついには、本質的に2つのインターネットに分割されると。…このアナロジーでは、一方は、米国とその同盟国の民主主義体制版のインターネットで、馴染みのある無秩序、絶え間ない商取引、大部分は言論の自由、広大で無秩序な空間に伴う避けられない虐待と混乱がある。もう一方は、中国が支配する領域では権威主義的(共産主義体制の原則に基づいた)ネット(authoritarian net)になる。

国務長官は、後者のネットのコンテンツは政府によって管理されており、政府の管理を強化するために顔認識が採用され、反対意見を嗅ぎ分けるためにAIが展開される。…このネットは中国に限定されるのではなく、中国の影響下にあり、権威主義を模索するアジア、アフリカ、そして中南米では補助金付きで先の「監視と統制パッケージ」を導入する。また、世界のネットのトラフィックは、本来自由な米国とその同盟国のネットでも中国が提供する海底ケーブルを通過する可能性があり、アクセスが制限される、と警告している。

以下の注で、国務省ホームページの内容の一部を示す。

注:国務省のホームページでの5Gとファーウェイの扱い

国務省のホームページで示されたポイントは、

  • 5Gの推進としては、4点のポイントを強調した。約束(Promise of 5G)、信頼(Trust)、軽減(Mitigation)、そしてパートナーシップ(Partnership)である。
  • 約束;導入は私たちの生活のあらゆる側面のイノベーションをもたらす…何百万ものネットワークデバイス、その他の分野で急激な発展を約束する。それだけでなく、現在まだ発明されていない無限の潜在的な用途をもたらす。
  • 信頼;これらの約束を可能にする5Gネットワ​​ークは、信頼できる企業の手により慎重に構築されなければならない。
  • 軽減;各国とも、リスク軽減が大事、そのためにも安全なメーカーにより構築されなければならない。
  • パートナーシップ;米国は安全な5Gを推進しようとする全ての国の努力と未来を財政的にも支援する。つまり、パートナーを組み対抗すべき。
  • 米国務省は米外交の中心であるが、そのホームページは真正面に5Gの発展の重要性を説き、そのためにはファーウェイの排除の重要性を説いた…5Gが米外交のトップイシューとなったのである。
  • なお、このホームページでは5GやAIがサーベイランス(監視)体制で悪用された場合、中国新疆ではどのよう悲劇がおきていたかを、日本人が書いたマンガを引用し、紹介した[1]

 【9】でサンガーが「同盟国を脅かすやり方では、同盟国であっても説得できない…また、多くの政府は米国の要請を拒否することで、「アメリカ・ファースト」への抵抗になるとみなしているとした。ただ、これまでのこところ、米国の呼びかけに応じたのは日本、オーストラリア、ニュージーランド、チェコ等少数で、大多数の同盟国、肝心の英や独を含めて、対応を決めてない。

 

バックドア疑惑

米国務省や多くの米政府関係者からファーウェイに寄せられている疑惑はこれだけでなく、バックドア疑惑もある。これについても国務長官は、大意「中国製の機器をネットワークに設置すると、北京の情報機関がデジタルトラフィックを読み取ったり迂回させたりできる「バックドアを設置する足がかりになる」とした。

一方、ファーウェイは「自分たちは民間企業」でバックドアを製品に仕込むことなどあり得ない、また、中国政府から命令されたとしてもそのような命令には従わない、と反論した…この反論について米側関係者は2017年に中国政府は「中国国家情報法」を施行しており、ファーウェイは中国政府からの極秘の要求を拒むことはできないだろう、とした[2]。が、これについても、ファーウェイの創立者の任(レン)はブルームバーグTV記者とのインタビューで、「当社は 96,768 名の持ち株社員のものだ。従業員以外誰もファーウェイの株式を所有していない。外部機関や政府の如何なる部門もファーウェイの株式を 1 ドルも持っていない」と、婉曲に反論した[3]

もう少し続けると、2020年に入ってのことだが、「ファーウェイが違法なバックドアを製品に仕込んでいると証明することは可能」との米国政府の主張をWSJ紙が伝えた[4]。一部メディアは「米国は、英国やドイツをはじめとする国に専門官を送り、この説明をした」と報道をしている。バックドア疑惑の解明とその対策は5G時代の世界にとり間違いなく最重要課題だが、これに対しても、英国やドイツはファーウェイ排除には応じていない。

これ以上は止めるが、筆者は米国の同盟国への説得にはトップ情報の提供も大事だが、それ以上に、先のサンガーが指摘した「(先のチャンピオンづくり等)同盟国にも多くのメリットをもたらすプランの相談する方がよりスマートでかつ生産的」と見ている[5]

 

[1] 清水ともみ、中国のウイグル族への弾圧を描いた「その国の名を誰も言わない」を参照されたい。

[2] これについては、日経, https://www.nikkei.com/article/DGXLASGM28H6T_Y7A620C1FF2000/がある。

[3] ファーウェイの「in his own words」、インタビュアーはブルームバーグニュース社マッケンジー。https://www-file.huawei.com/-/media/Corp/facts/PDF/2019/IN_HIS_OWN_WORDS_jp.pdf?la=en

[4] https://jp.wsj.com/articles/SB11367435475918324839204586197412226523744

[5] もちろん、これらの国でも経済大国中国とは様々な関係があり、事は簡単ではないが。