<連載シリーズ>繁栄へ導く知のシステムを模索する 第1回 米中関係-中国はなぜ自信を深めたのか
先日、トランプ大統領が北京を訪問し、習近平主席と会談した。日本ではこの会談が大きく報じられた。台湾問題、関税問題、AIや半導体競争、安全保障問題など、世界の重要課題が話し合われると見られていたからである。また、日本を飛び越えて米中が直接向き合う形になったことへの不安も、日本国内で関心を高めた理由だったのかもしれない。
しかし、アメリカの外交専門誌『Foreign Policy』副編集長のJames Palmerは、この会談について非常に興味深い表現を使った。
“The Trump-Xi Summit Was Remarkably Banal”
――「トランプ・習会談は驚くほど平凡だった」という意味である。
普通に読めば、「大した成果のない会談だった」という意味に聞こえるかもしれない。しかし、Palmerが本当に注目したのは、会談の内容そのものではなく、中国側の“扱い方”だった。彼は副題で、「自信を深めた中国は、もはや米大統領の訪問を特別なものとして演出する必要を感じなくなった」と書いている。実際、中国側の扱いは以前とはかなり違っていた。
トランプ大統領が到着した日、中国共産党系英字紙『チャイナ・デイリー』の一面は、習近平主席がタジキスタン大統領と握手する写真だった。また、中国で最も視聴されるニュース番組『新聞聯播』でも、トランプ訪中は短時間しか扱われず、その後は国内経済特集が続いた。さらに重要なのは、この会談の前後の日程である。
中国はその直前にアジア諸国首脳との会議を開き、その一週間後にはプーチン大統領を迎えている。つまり、中国にとって米国大統領との会談は、もはや「世界で唯一無二の特別な外交イベント」ではなく、多くの大国外交の一つとして位置づけられつつあるように見える。
もちろん、中国が米国を軽視しているわけではない。AI、半導体、大学研究、金融市場、軍事力などでは、依然として米国の力は極めて大きい。また、中国経済も、不動産問題、人口減少、地方政府債務など、多くの課題を抱えている。しかし、それでも中国は、「自分たちはそれらを克服できる」という強い自信を持ち始めているように見える。
実際、中国はEV(電気自動車)、電池、再生可能エネルギー、レアアース、通信機器などで世界的存在感を急速に高めてきた。特にレアアースやEV電池では、世界市場で圧倒的なシェアを持つに至っている。さらに中国政府は、「人口減少や経済問題があっても、AIや先端技術によって新しい成長を生み出せる」という確信を強めているようにも見える。
重要なのは、こうした中国の変化に対するアメリカ側の見方も変わり始めていることである。
これまでアメリカでは、中国の発展は政府補助金や外国技術の導入、あるいは強制的技術移転によるものである、という理解が強かった。もちろん、それらが中国発展の大きな要因であったことは事実である。しかし、近年には、アメリカの研究者や政策関係者の間では、「それだけでは現在の中国を説明できないのではないか」という議論が急速に増えている。
そして現在、アメリカ国内では、こうした状況を単なる「トランプ外交の失策」として片付けるのではなく、より深い問題として捉える議論が出始めている。
つまり問題は、一時的な外交政策や関税政策にとどまらない。
• 国内の分断
• 短期利益重視
• 製造基盤の弱体化
• 長期戦略の不在
• 政策の一貫性低下
などを通じて、「アメリカ自身のシステム」が弱くなっているのではないか、という危機感である。
彼らが新たに注目し始めているのが、中国の“システム”そのものである。
中国では、研究、人材、企業、地方政府、国家資金、市場、製造業などが、長期戦略のもとで強く結びつきながら動いている。
例えばEVであれば、
• 補助金
• 電池開発
• 充電網
• レアアース
• 国内市場
• 輸出
• 地方政府支援
までが、一つの方向へ向かって動いている。
またAIにおいても、
• 半導体
• 大学
• データ
• 国家資金
• 軍民融合
• 監視システム
が相互につながりながら進められている。
つまり中国は、個別企業だけではなく、「国家全体」が連携しながら改善を続けているのである。
実は、アメリカも本来は、大学、企業、軍事研究、ベンチャー投資、市場、人材などが分散的に結びつきながら、インターネットや半導体、AIなどを生み出してきた国だった。そこでは、中国のように国家がすべてを統制するのではなく、多数の主体が競争と協力を繰り返しながら、継続的にイノベーションを生み出してきた。このアメリカ型の連結システムを、ここでは「民主主義的連携(Federated)型システム」と呼ぶ。
しかし現在、アメリカの研究者や政策立案者の間では、「中国の国家統合型システム」が自分たちのシステムを上回り始めているのではないか」、さらには、「自分たちも、新しい連携型システムへ修正・再構築する必要があるのではないか」という議論がで始めている。事実、先のバイデン政権では、CHIPS法やScience Actを通じて、半導体、研究、人材、製造基盤を再結合し、「民主主義側のシステム」を立て直そうとする動きが始まっていた。
実は、この「改善を続けながら成長するシステム」は、中国やアメリカだけのものではない。
日本もまた、戦後、この仕組みを世界で最も成功させた国であった。現場改善、品質管理、長期投資、人材育成、産業協力――こうした仕組みを通じて、日本は世界第二位の経済大国へ成長したのである。
次回は、中国型システム、アメリカ型システム、そしてその背景にあった日本型システムについて考えてみたい。
以上
(連載シリーズ 第2回へつづく)

