【シリーズ:AI】AIは日本にとり好機か危機か
危機認識 ~前編~
Linux Foundation(LF)のジム・ゼムリン代表が訪韓直前の3月16日に来日し、意見交換の機会を得た。急な日程であったが政府関係者との面談も実現した。このこと自体、現政権においてAIが半導体や宇宙と並ぶ国家戦略の中核に位置づけられていることを示している。
議論は、生成AI、AI for Science、フィジカルAIなど多岐にわたったが、特に重要だと感じたのはAgentic AIの進展状況である。なお、「生成AI」が一方的に「答えを出す」技術であるのに対し、「Agentic AI」は結果をフィードバックし、自らを改善しながらタスクを遂行する。つまり、単なる知的な出力装置ではなく、知的に「回り続ける主体」としてAIは機能する。また、さらにAIは支援ツールから実行主体へと変化しつつある、であった。
後者で、象徴的なことは、LFが主導するAgentic AI Foundation(AAIF)の急速な拡大である。このAAIFの発足は昨年12月10日に東京とサンフランシスコでゼムリン代表が発表している。同日、東京で700名余の参加者を前に発表し、同日、サンフランシスコ便にのり、2000名余の参加者を前にこの発足を発表した。そして、発足からわずか3カ月の時点で、世界の大手テクの約170社が参画した。AAIF内では、すでに標準化とプロトコル設計の議論が本格化している、という。
ここで重要なのは、これが研究段階ではなく、実装を前提とした議論である点である。すなわち、Agentic AIはすでに構想ではなく、産業基盤としての設計段階に入った。驚異的なのはそのスピードにある。インターネットは普及に10年以上、クラウドも同様に長い時間を要した。しかしAgentic AIでは、標準化と実装が同時に進み、企業現場への導入が急速に進んでいる。もはやAgentic AIでは「検討する段階」ではなく、「実装に参加するか否か」が問われている。
この背景には、AIコーディングの進展がもたらしたソフトウェアコストの劇的な低下がある。結果として、企業は一気に実装へ踏み込むことが可能となり、変革の速度は従来の数倍から数十倍に加速した。そして、すでに米国企業では人材構造の転換が始まり、コーディング中心の人材は数千、数万と解雇された。ただ、一方的な解雇だけではなく、これらの企業では急激な勢いで、新たなアーキテクトやオーケストレーターの人材雇用が始まっている。企業転換が始まったのである。
ここで見落としてはならないのは、この変化が単なるAI導入ではなく、AITX(AI Transformation)であるという点である。これは業務の高度化ではなく、業務そのものをAI前提で再設計する構造転換である。そして最も重要なのは、日本のポジションである。現時点で標準化の中核において存在感を示している日本企業は極めて限定的であり、このままでは過去と同様に、技術を持ちながらルール形成に関与できない状況が再び生じる可能性がある。しかも今回は、後からのキャッチアップが極めて困難である。
結論として問われているのは、AIを導入するかどうかではない。この新たな産業基盤の設計に参加するのか、それとも利用者にとどまるのかという選択である。この判断の遅れは、取り返しのつかない差につながる可能性がある。

