【5】5Gへの米国の態度と戦略(4)米国防総省アドバイザリーボードによる提言
DIBはDoDのトップへのアドバイスをする機関である。既に前述の元グーグルCEOのシュミット(Eric Schmidt)がこの機関の議長だとしたが、本提言書についてはメディン(Milo Medin)とルイ(Gilman Louie)[1]の二人が纏めた。メディンはDIBのメンバーで、グーグルのワイヤレスサービス担当の副社長。一方、ルイは技術系ベンチャーキャピタリストで、現在CIA等の諜報機関が始めたベンチャーIn-Q-Tel(IQT)の責任者でもある[2]。
提言書の内容
提言書はDoDのデジタルの専門家ではなく、DoDのトップや安全保障に関連する議員にあてたものである。
提言書では、まず、移動体通信発展史、それぞれのGでの性能、そして5Gが安全保障や軍事行動にもたらす変容を紹介している。発展史では、先行優位がもたらした各国の経済・産業動向を明確にした。また、各国の5G状況を確かめ、「米国の軍事・安全保障・戦略発展のため」、米国が先行しなければならない、とした。5Gの導入で、性能は飛躍的に向上するが、同時に、セキュリティ上に大きな問題をもたらすことをあわせ、記述した。
5GはDoDに大きな変容をもたらすが、5Gで使われるスペクトルは国により違う。
各国の5Gでのスペクトルについて、詳細は下記を参照されたい。
THE 5G ECOSYSTEM: RISKS & PPORTUNITIES FOR DoD
DEFENSE INNOVATION BOARD April 2019
Coauthors: Milo Medin and Gilman Louie
Contributors: Kurt DelBene, Michael McQuade, Richard Murray, Mark Sirangelo
https://media.defense.gov/2019/Apr/04/2002109654/-1/-1/0/DIB_5G_STUDY_04.04.19.PDF
4Gのスペクトルとは異なり、サブ6(sub-6)と呼ばれる低帯域とミリ波(mm Wave)と呼ばれる高帯域が使われる。なお、これらは低帯域、中帯域、高帯域と区分されることもある。
DIBの提言書は、サブ6とミリ波領域の性能比較も行っている。たとえば、高速性などでは、サブ6 では、ミリ波よりも一般的に劣るが、さまざまな環境要因による中断のリスクなしにより広いエリアをカバーできるメリットがある。それに、サブ6は、既存の
技術体系を利用できる部分が多くあり、短期に開発が可能になる。何れにしろ、各国でこれらの領域について開発中であり、最終的な5Gの国際「標準」が決定されるだろう、とした。
また、中国はサブ6を先行させており、このままでは、中国のサブ6のスタンダードが世界の「主流」となる可能性もあり、米国もサブ6での開発も急ぐ必要があるとの提言もした。なお、米国では、サブ6の大部分はDoDを始めとする連邦政府関係に割り当てられ、これまで商業的アクセスを制限してきた経緯もあったのである。
THE 5G ECOSYSTEM: RISKS & PPORTUNITIES FOR DoD
DEFENSE INNOVATION BOARD April 2019より。注釈は著者による。
それだけに、米国がサブ6の利用に踏み切ることになれば、連邦政府は既存の政府関係のユーザーの移動や共有等の再調整をはかる必要がある。DoDも商業目的との共有を含め、早急に検討しておくことが必要である[3]。また、共有は新たなセキュリティ上の問題を伴い、これらにもあらかじめDoDは対応しておく必要があるとした。
[1] メディンはGoogleワイヤレスサービス担当副社長(Nasaに勤務時代にNASA Science Internetの設計・監理)。ルイは技術系ベンチャービジネスAlsop Louie Partnerのパートナー。
[2] In-Q-TelはCIAと先端テクノロジーとの接点づくり。ロッキード・マーティンの元CEOのオーガスティンらが創立。現在は、DIA(国防情報局)といった幅広いインテリジェンスコミュニティからも参加。
[3] これらのスペクトルの共有、あるいは他のスペクトルへの再配置後にオークションや直接割り当てもできるが、これまでの例では5年、10年の時間がかかる。このため、連邦政府の機敏な動きが求められている。