【6】5Gへの米国の態度と戦略(5)移動体通信史に見る先行優位性
移動体通信発展史では、デジタルテクノロジーの急激な成長を特に強調している。つまり、1G、第一世代は1980年代初頭に導入されて以来、ほぼ10年ごとに新しい世代のテクノロジーとワイヤレス標準が導入されている。それぞれの世代で通信の価値は指数関数的に増加した(それぞれの世代でのビジネスや軍事セクター毎に多くの技術が開発され、時々に大きな技術的変容をもたらした)。
「世代の特徴」を以下に示す。
・1G(音声通話):
1980年代初頭に導入された1Gは音声通信とデータ転送機能(初期機能〜2.4 Kbps)に重点を置いて実施されている。アナログ信号を利用し、AMPSやTACSなどの標準を使用、分散基地局(セルタワーでホスト)のネットワーク間でセルユーザーを「ハンドオフ」していた。
・2G(メッセージング):
1990年代に導入された2Gモバイルネットワークは音声品質、データセキュリティ、およびデータ容量を向上させるために、初にデジタル暗号化通信。1990年代後半には同じ2Gでも2.5Gおよび2.75Gと呼ばれるテクノロジーがでた。それぞれGPRSおよびEDGE規格を使用し、データレートの改善(200 Kbps以上)が可能となった。これらの後半で見られた2Gイテレーションは、パケットスイッチングを介したデータ伝送が導入され、3Gテクノロジーへの足がかりとなった、がある。
・3G(制限されたデータ:マルチメディア、テキスト、インターネット):
データパケットスイッチングに完全に移行することにより、データ転送速度の速い3Gネットワークが導入された。これによりデータストリーミングが可能になり、2003年にはモバイルインターネットアクセス、固定ワイヤレスアクセス、ビデオコールを備えた最初の商用3Gサービスが開始されだした。3Gネットワークは、UMTSやWCDMAなどの標準を使用し、静止時のデータ速度を1Gbpsに、モバイル時のデータ速度を350Kbps以上に向上させている。
・4GおよびLTE(動的情報アクセス、可変デバイス):
4Gネットワークサービスは米では2008年に導入された。全IPネットワークを活用し、パケットスイッチングに完全に依存することにより、3Gの10倍の速度でデータ転送を行いだした。4Gネットワークでは、帯域幅が広くネットワーク速度が向上するため、ビデオデータの品質が向上した。LTEネットワークの導入により、モバイルデバイスおよびデータ端末での高速ワイヤレス通信の標準が確立されている。LTEは常に進化しており、現在リリース番号12になる。また、「LTE advanced」は最大300 Mbpsをサポートする。
・5G(今後決まるが多くの可能性):
現段階で5Gの正確な機能と採用範囲は未定。データ転送の速度、量、および待機時間は、使用されるスペクトル帯域、およびネットワーク使用状況(固定またはモバイル)に依存する。たとえば、ミリ波ネットワークは、波の伝搬を制限しない特定の条件下で固定ローカルエリアネットワークでは高速を可能にするが、逆にそれらの速度を拡張範囲(「セルエッジ」)に維持するのに苦労しよう。Wikipediaをもとに作成した図で、以上の発展を示す。
先行優位(leading advantages)
提言書は、携帯通信の世代移行時には先行者優位と言える現象がおきていたことを確かめている。「先行者(ファーストムーバー)はネットワークの建設、その他、さまざまな機器の開発といったリスクをともなうが、それらを上回る、経済、競争、およびセキュリティ上の大きなメリットを手にすることができた」、と。
これについて、「2Gの移行ではドイツが率いる欧州勢がいち早く着手した。結果、フィンランドのノキアやスウェーデンのエリクソン、あるいはドイツのシーメンスといった企業が、世界に先駆け高度なデバイスを開発・発展させた。また、米国がまだ2Gを実装できてない2000年代に、3Gへ移行をしだしていた。この時、欧州の企業は活況を呈していたが、米企業はペースを維持するのに苦労した」、と。
続き、「欧州では次の世代への切り替えに、既存の2Gスペクトル帯域幅の再利用ではなく、彼ら自身が導入していた3Gスペクトルのオークションを必要とする規制を設けたため、切り替えに時間がかかり、折角のエッジを失った。一方、この時に彼らに代わり3Gをリードしだしたのは、日本勢」とした。事実、この時にはNEC、東芝、富士通といった日本の企業が世界をリードした。提言書では、「米国も最終的にはこれらの日本企業に追いついたが、3Gネットワークを展開するのに数年」かかった。この間、米国は「多くの雇用機会と本来得るべき経済的収入を失っている。多くの関係企業がつぶれ、また、海外企業に吸収された」、とした。
米FCCが果たした役割
DIBの提言書は、続いて、「米国は、4Gおよび4G LTEへの移行時には、この教訓を学んでいた」、とし、米国は、「3Gの導入は遅かったものの、次第に3Gへの投資が増え、最終的には4G時代が到着したときに米国は世界をリード」した。この理由を、米FCC(連邦通信委員会)[1]が、「より多くのスペクトルへのライセンスを開き、また、4Gネットワークの急速な拡大を促進するための規制」を誘導していったとその役割をのべた。
提言書は、この時の具体的な効果として、「2010年代初頭、AT&Tとベライゾン(Verizon)は、2008年のオークションで勝った700 MHzスペクトルで米国全体にLTEを急速に展開した。米国は、フィンランド(ノキア)に続いて、既存の3Gネットワークの約10倍の消費者ネットワークパフォーマンスを提供する包括的なLTEネットワークに到達した国となった」とした。
事実、この後、一群の米関連企業で新しいチップを搭載した新型携帯電話が短期間に開発され、導入された。これらは、より多くのデータ移動ができるだけでなく、計算速度も大幅に向上」した。提言書は更に、「アップル、フェースブック、グーグル、アマゾン、ネットフリックスなどの米企業は、そのスペクトルとこれらの新しいハンドセット機能を活用した新しいタイプのアプリケーションとサービスを提供した。そして、これらLTEが海外で展開されだすと、同じハンドセットとアプリケーションが世界中に広がり、グローバルなワイヤレスおよびインターネットサービスにおける米国の支配」が確立した。そして、提言書では「4Gの導入が2011年から2014年の間にワイヤレス業界の70%の成長に寄与し、米国のGDPを強化する一方でワイヤレス業界の業務を80%以上増加させた」との分析を紹介した[2]。かく、米FCCは米国が4Gの先駆者となる道を開いていた。その結果、米国に世界をリードする「ネットワークプロバイダー、デバイスメーカー、アプリを開発するためのグローバルエコシステム」が構築された。
一方、この時の日本は、最初は「米国と歩調を合わせることができたが、企業努力だけでは限界があり、ついには米国(米FCCがリードし4Gエコシステムを形成する)の迅速な動きに遅れをとった。結果、米国は、世界のスマートデバイス市場での主導権を握ったが、日本は急速にその競争力を失った」。事実、その後、日本のオペレーティングシステムは韓国、台湾、ひいては中国へと移行した。
なお、以上の出来事は、日本の未来繁栄戦略づくりにも参考になる。つまり、その未来繁栄は、如何に今後、日本が5G、ひいてはAIで先行し、グローバルエコシステムを構築できるか、で決まるのである。これらのことは、後で再び取り上げる。
[1] 米FCC:Federal Communications Commissionは米議会の法令によって創設され、権限を与えられた米国内の放送通信事業の規制監督を行う。現FCC委員長はパイ(Ajit Pai)
[2]Recokon Analyticの2018年4月の報告書 https://api.ctia.org/wp-content/uploads/2018/04/Race-to-5G-Report.pdf