<連載>トランプ2.0政権が描く未来への地図 【第2回】トランプ2.0政権の未来への布石と科学技術政策
1月20日、ワシントンDCは寒波に見舞われる中、トランプ大統領の就任式が米国議会議事堂で執り行われた。ロタンダと呼ばれる円形の建物は米国が誇る美しい建築の一つだが、式典をより華やかにしたのは、その内部の装飾ではなく、出席者たちの顔ぶれだった。
トランプ陣営に総額2億7000万ドル(約400億円)を献金したイーロン・マスクをはじめ、アマゾンのジェフ・ベゾス、メタのマーク・ザッカーバーグ、グーグルのサンダー・ピチャイ、アップルのティム・クックら、ビッグテックのトップが一堂に会した。これらの企業は、頭文字をとってGAFA、さらにマイクロソフトを加えたGAFAMと呼ばれるが、ダボスの世界経済フォーラムに出席していたマイクロソフトのサティア・ナデラを除き、全員がトランプの就任式に出席したことになる。正面入り口から式場に入ったトランプ大統領は、最初にティム・クックと握手したが、二人の間には過去に因縁めいた出来事もあったため、これを「象徴的なジェスチャー」と見る向きもある。
大統領は就任スピーチで人工知能(AI)の活用とデジタル通貨の導入を掲げ、「技術革新を推進し、経済成長と国家安全保障を強化する」と技術の重要性を強調した。
この光景を見て、一部のデジタルウォッチャーは、「テクノロジーがまるで政治を飲み込んでいる」と評したが、実際は逆に「政治がテクノロジーを飲み込んでいる」という印象を受けた人も多かった。いずれにしても、政治とテクノロジーの接近を象徴する出来事となった。
<トランプ2.0の科学技術政策>
前回のトランプ1.0政権では、トランプ大統領がシリコンバレーの大物ピーター・ティールのトップアドバイザーであったマイケル・クラツィオスを政権のCTO(最高技術顧問)に任命し、彼に米国の繁栄のためのCET(重要先端技術)の導入計画を作らせたことを紹介した。クラツィオスはバイデン政権の目玉となった「CHIPS法とScience法」の骨格づくりを行った人物である。また、テネシー州立大学システムノックスビル校(UTK)のAI教授だったリン・パーカーをOSTP(ホワイトハウス・科学技術政策局)のAI担当部長に任命し、AIを活用した米国のリーダーシップ確立のための政策を策定させた。加えて、ティールも政府の技術顧問として、政権の技術政策を助言していた。
トランプ1.0政権時の商務長官であったウィルバー・ロスは、過日のインタビューで「トランプ氏はトランプ2.0政権で、より熟練し、戦略的かつ効率的な政策運営に取り組んでいるようだ」と語っている。事実、トランプ2.0政権の科学技術政策では、昨年11月6日の選挙で勝利が確定して以来、素早い動きを見せた。これまで民主党寄りだったシリコンバレーの大物たちと接触し、その人材と政策を受け入れ、「AIとデジタル通貨分野」を重点的に強化する方針を掲げた。
昨年のクリスマス前には、新たにPACT(大統領技術諮問委員会)を設立し、議長に米国最大のクレジットカード決済「PayPal」の共同創業者であるデビッド・サックスを任命すると発表した。サックスは「PayPalマフィア」と呼ばれるグループのボスで、「暗号通貨・人工知能担当(Crypto and AI)」のツアール(Czar)としての役割を担うことになった。
さらに、トランプ1.0で実務経験を積んだクラツィオスを今回はOSTP(科学技術政策局)の局長に任命し、先のパーカーをクラツィオスのAI顧問およびPACTのエグゼクティブメンバーにすると発表した。より熟練した人材がツアールをサポートし、効率的な政策運営を実現する布陣が整えられた。
<シリコンバレーの人脈と技術政策の強化>
「暗号通貨とAI」のツアールとなったサックスは、昨年シリコンバレーで2度開催されたトランプ支援の会の中心となり、巨額の資金だけでなく、人材もトランプ候補のために集めた人物である。もっとも、すべてのシリコンバレー関係者がトランプ支持に転じたわけではない。例えば、トランプ1.0では積極的に支援を表明し、自身も技術顧問として政権に参加したピーター・ティールは、今回の大統領選では、トランプ候補と距離を置いていた。
ただ、ティールに代わる人物が登場した。シリコンバレーのベンチャーキャピタリストであるマーク・アンドリーセンとベン・ホロウィッツが人材・資金・政策を提供する立場となった。アンドリーセンは「ソフトウェアが世界を飲み込んでいる(Software is eating the world)」というフレーズを使ったことで知られている。
アンドリーセンとホロウィッツは、2009年にa16z(Andreessen Horowitz)というベンチャーキャピタルを設立し、デジタル分野のスタートアップ支援と人材育成を行ってきたが、トランプ2.0では、このネットワークが政権の技術政策に深く関与することになる。
<今後の展望>
就任式の翌日、1月21日にはトランプ大統領が、オープンAIのサム・アルトマン、ソフトバンクの孫正義、オラクルのラリー・エリソンらとともに記者会見を行い、「スマート・ゲート」プロジェクトを発表。5,000億ドル(約80兆円)を投じ、AIとデジタルインフラの整備を推進すると宣言した。
また、中国の若い数学者が開発した「DeepSeek」というAIのプログラムが1月20日に発表されたが、ChatGPTより信頼できるとされるこのプログラムをトランプ大統領就任式当日に発表するという中国側の政治的意図があると考えられている。
まさに政治と技術の接近であり、第1回で述べたようにトランプ2.0の技術政策が本当に機能するのか、今後注視するポイントになろう。
第3回は「トランプ2.0スタート時点での評判とサンダーの日々」、また第4回は「シリコンバレーとの関係」を取り上げ、掘り下げてみたい。
(代表武田 記)