【QISE(量子情報科学工学)について日本の課題】第65回(2023/5/23)無名塾開催 講師:根本香絵(沖縄科学技術大学院大学(OIST)量子情報科学・技術ユニット 教授 OIST量子技術センター長)
◆冒頭挨拶ー塾僕武田◆
この数年、米中の経済摩擦、パンデミック、ウクライナのロシア侵攻といった激動が立て続けに起きているが、これを世界のソートリーダーの中心の人たちは、新たな時代へと向かう“大転換”が起きていると捉えている。そして、サイエンスが次の時代の繁栄と安全保障でもっとも要になるものとしてアメリカ、中国、EU,グローバルサウスの国々は動き出した。
アメリカは、昨年8月にCHIPS&SCIENCE法案を成立させた。法案は【Division A: CHIPS ACT OF 2022】、【Division B : SCIENCE(RESEARCH and INNOVATION)】から成る。Division Aの半導体の支援は大事だが、より米国にとり大事なのは後者のサイエンスの研究とイノベーションである。バイデンは、2800億ドルの資金を投じることを決めた(内、半導体には570億ドル、2000億ドル以上がサイエンスの資金)。
岸田政権は科学を全面的に打ち出している。ただ、アメリカも中国もサイエンス大戦略として、すべての国力を投じる覚悟でやっている。次の日本でのサミット開催も岸田政権の下でやってくれると思うが、大戦略は、超長期的に継続して行う必要がある。生成AI、サイバー、宇宙、グリーンテックやバイオエンジニアリングも大事である。量子情報科学(QIS)、量子情報科学工学(QISE)も大事になる。これらをどう進めるか、で日本の繁栄が決まる。Q-STAR(量子技術による新産業創出協議会)等いくつかの動きがでており政府が支えてきたと思うが、それぐらいでは足りない。
本日は、沖縄科学技術大学院大学の根本先生に率直な話をしていただくが、ぜひ議論していただきたい。
◆コメント 塾僕武田◆
今後、外交政策の中でサイエンス政策が最重要になっていくと思う。配布する資料は、米国(それ以上に日本)が中国に比していかに遅れているか、中国はいかにサイエンスをやってきたか、について調べた資料。米中は異なる体制の国だが、サイエンスを重視する点では同じである。中国は「屈辱の100年」の後、科学技術の重要性を学んだ。結果からみると、毛沢東はそれほどでもなかったが、鄧小平以降、さらに現在の習近平はサイエンスについて本当にしっかり学んでいる。
一方、米国の国づくりの原点には啓蒙主義がある。ジェファーソン、アダムズ、フランクリン、そしてジョージ・ワシントンといった国父たちは、いずれも啓蒙主義者だった。19世紀のリンカーンも南北戦争の最中にサイエンスをもとにした国づくりの観点から、米科学アカデミーを創立しランド・グラント大学制度を作り、国づくりを推進した。20世紀半ばには、アイゼンハワーとケネディが宇宙を始めとする新たな科学技術が出遅れていることを知り、サイエンスをもとにした国づくりに着手した。これにより20世紀を通じて米経済が繫栄、安全保障で絶対的な優位に至った。これを真似したのが鄧小平以降の中国である。
この中国が繁栄し、それに対して長い間繁栄の中でサイエンスの体制を刷新してこなかった米国に黄色信号がともった・・アダムスやワシントン等は独立戦争の最中、1870年に米国芸術科学アカデミー(American Academy of Arts and Sciences)を創立しているが、このアカデミーが米中サイエンス・エンジニアリングの基礎で比較を行った資料がある。もう一つは、ハーバード大・ケネディスクールのベルファー研究所のグラハム・アリソン所長他が行った先端サイエンスのプロダクトであるQISE、バイオエンジニア、グリーンテック、5G、半導体の比較の資料である。5Gでは、中国がアメリカを圧倒し、量子情報科学工学でもパテント数で既に中国が圧倒している。更にグリーンテックのサプライチェーンでは、中国が圧倒的に優勢にたった。これは中国が資源に恵まれているからではなく、彼らが超長期的な大戦略を持ち、その下で10年、20年継続してやってきた結果と言える。
時代が大転換する時には、民が力を持つのではなく、国である。国が道を拓き、民はその中で繁栄を遂げる。現下のように、新たな繁栄を目指し世界が動き出したときには、これを間違えてはならない。
民主主義体制のアメリカと権威主義体制の中国は全く異なるようだが、国がリードしてサイエンス大戦略、そして産業政策に取り組んでいるのは同じである。日本もサイエンス大戦略をたて、産業政策に取り組むべき時期に来ていると思う。
岸田総理はサイエンスの本質を知っている方と考えている。QISE、生成系AI、宇宙空間の利用を国としてどう考えるか。5月に開催した広島サミットの結果を世界は評価した。変わりようがない国とされた日本は、ガバナンスで変わることができる、と。サイエンスでも民主主義体制を確立するために国がどのようにリードするのか示すべき時だと考えている。