【連載】「人工知能(AI)基本計画」を生かすAIの“トリセツ”と日本人の本質

(Ⅰ)人工知能(AI)は、PDCAでまわす

 高市政権は、昨年12月23日、「人工知能(AI)基本計画」を閣議決定した。前政権下では、日本の未来はどこか「重い雨雲」に覆われているように感じられていた。しかし高市政権が昨年10月に誕生して以来、その雨雲を一気に吹き飛ばし、未来に後光が差し込むような出来事がいくつか起きている。その一つが、この「AI基本計画」である。

 この基本計画は、一部では「数十兆円を投じて、人間の知能を超えるAGI(汎用人工知能)開発競争に日本も参加するのか」といった誤解がでたかもしれない。しかし、本計画はそのことが本質ではない。この基本計画が目指しているのは、AGI開発競争への参加ではなく、日本国民がAIを安心して使い、その成果を最大限に引き出せる社会環境を整えることである。それによって長く停滞していた日本を再び成長軌道に戻し、技術・制度・信頼の面で世界の高みに立つ日本にもどすことにある。そのために基本計画が掲げた中核的な考え方は、AIに関するPDCAサイクルを並行して回し続けるという方針である。
PDCAとは、Plan(計画)、Do(実行)、Check(評価)、Action(改善)の頭文字を取ったもので、これらを繰り返し回すことで、仕事の品質や生産性を継続的に高めていく手法である。この考え方は、日本にとって決して新しいものではない。第二次大戦後に来日し、日本人に統計的生産管理の思想を説いたデミングが唱えた概念で、この概念を日本人は生産現場で鍛え上げ、独自に発展させてきた。その結果、このPDCAはモノづくりにとどまらず、今や世界に広まり、あらゆる分野の目標達成のための基本手法として使われている。

AI基本計画におけるPDCAは、次のように具体化されている。

 Planでは、学校・病院・工場・役所といった現場でAIを実際に使うことを前提とする。Doでは、AIによって学習成果や業務効率を高め、さらに開発力を強化するために人材育成やデータ基盤の整備を進め、日本発のAIが生まれるエコシステムを構築する。Checkでは、安全性、著作権、個人情報保護などに関するAIガバナンスを日本から発信し、世界を主導する。そしてActionでは、学び直しや働き方を見直し、人とAIが協力できる社会へと構造転換を進める。そして、日本では、このPDCAを回し続けることで、AIを「脅威」ではなく「仲間」とし、技術・制度・信頼の面で世界の高みに立つ日本へと反転攻勢に出る、というのが計画の基本思想である。

 しかし、こうした説明に対し、「AGI開発と違い、PDCAを回すだけで本当に日本の未来に光が差すのか」と疑問を抱く人もいるだろう。事実、米中のAI大国に大きく後れを取り、ソフトウェア産業は弱く、デジタル赤字は深刻な状態におちいり、また、先端AI研究に不可欠なLLM(大規模言語モデル)研究者の絶対数も米中に比べれば、二けた少ない。そのような日本にこのような“生ぬるい”手段で本当に大丈夫なのか、と。

 だが、その疑問こそが、AIの本質とその取り扱いを十分に理解していないことから生まれている。また、日本人の本来持つ特性を理解してないことからくる。実は、このAI基本計画は、AIの本質を正確に捉えたものであり、AIの正しい取り扱い方―正しい「トリセツ」を踏まえて設計されている。そして高市政権が強調するように、日本人が本来持つ特性を発揮することができれば、この計画は、これまで垂れ込めていた曇雨を吹き飛ばし、日本の未来へと続く一条の光をもたらす可能性を秘めている。

次回、IIでは「AIのトリセツ」、IIIでは、日本人の特質について、取り上げていきたい。