【AIと法規制をめぐる議論の動向】第70回無名塾(10月28日開催) 講師:岡田 淳 氏 (森・濱田松本法律事務所 パートナー弁護士)

【塾僕武田のコメント】

 昨年2023年12月28日付のタイム誌は、『2024年は「選挙の年」である』との記事を掲載した。実際、「The Ultimate Election Year: All the Elections Around the World in 2024」の中で、2024年に世界の64カ国で選挙が行われ、世界人口の約半分、49%が参加することから2024年の年は大きな転機となるだろうという内容を掲載した。

 事実、今年2024年はこれまでイギリス、フランス、ロシア、あるいはEUで選挙が行われ、そして確かに、それぞれの国や地域で大きな意味を持つ出来事を残した。日本の衆議院総選挙も行われ(先のTime Magazineの記事にはこれは入ってない)、自公は惨敗であったが今回の選挙で争点となった「政治と金」の問題は、今後の選挙改革を促し、日本の政治や社会に大きな意味をもたらすのではないかと考えている。

 実は、無名塾の勉強会の立ち上げは、2009年の衆議院総選挙の後遺症にどのように対応するかという問題意識が原点にあった。当時、民主党が331議席を獲得し、自民党は115議席にとどまった。その後、民主党政権に移行したが、その一年後に、このままでは日本の先行きを危ぶむ声が多く聞かれるようになり、産学の何人かの方々と相談し、日本の将来を考える場として2010年に無名塾の立ち上げとなった。その後14年にわたり勉強会を開催してきたが今回で70回目を迎える。しかし、今回の選挙結果を踏まえると、まだしばらくはこの会を継続していく必要があるという気持ちでいる。

 現在、重要な課題が現下の日本では進行している。それが本日のテーマである「AIと法規制」である。これは世界的にも大きな課題であり、ポイントを本日の講師、岡田淳弁護士に話していただく。岡田弁護士は、内閣府の「AI戦略会議」や経済産業省の「AI事業者ガイドライン ワーキンググループ」のメンバーを務めておられるが今後とも様々な面で、包括的なAIの問題について私たちにアドバイスをして頂けると思っている。

  アメリカでは、昨年10月にバイデン大統領がAIに関する大統領令を発表した。この発表ではアメリカの繁栄と安全保障に関連する三点が書かれていた。①安全で信頼できるAIの開発をどうするのか、②どのようにAI技術を活用し、国家安全保障を達成するのか、③AIガバナンスの促進をどうするのか、であった。この後、アメリカではこれらの議論が行われ、バイデン大統領は、今年10月にAIを情報産業、あるいは軍事的にどのようにアプライするのかについてのメモランダム(National Security Memorandum on AI)を出している。では、今後これらを中心に議論が行われるのか。11月5日に「選挙の年」の最後ともいえるアメリカの大統領選、上院下院の連邦議会選挙でトランプ前大統領が民主党のハリス副大統領を破り、再選を果たした。既に彼は「自分はバイデン氏のメモランダムに従わず、それを取り払う」と明言しているので米国での議論の方向が変わる可能性がある。これはEUにおいても同じで、先の選挙により変わってくる部分が今後出てくるかもしれない。

 また、本日議論したい点がある。それは、発展速度が急激に加速するAIのような技術を扱ううえで、法的にどのような形を構築すべきか、ということである。AIを急成長させ、繁栄させるために法的には何が必要か、また、日本でも大きな問題となっているデジタル赤字をどうすれば解消できるのか、法体制につながるかもしれない。さらに、これらの課題を考えるにあたり、事実に基づいた議論が重要である。そのためには、研究者、企業、役所の方々が意見交換をして「これが事実である」と示す役割が必要であると考えている。

 急激に時代が移る時は、その時々で対応した政策を作ることができる研究者が求められる。これまで「研究者は、研究だけ」という意識が強かったが、求められている法案について議論し、政策を次々と作り上げる必要があるときは、急激な変化に研究者が対応できることが求められる。また、日本とアメリカ、EUが連携してAI分野の競争力を高め、10年、20年後に中国がこちらサイドに向き合う時代が来ると思っている。         

 岡田弁護士には、今後、政治家を含めて日本のAI分野の議論をリードしていただきたいと願っている。