【生成AIと日本の戦略について】第67回(2023/12/1)無名塾開催 講師: 岡野原 大輔 氏(Preferred Networks 共同創業者、代表取締役 最高研究責任者)
2010年に東京大学にて博士(情報理工学)取得。大学院在学中の2006年に西川徹氏等とPreferred Networks(PFN)の前身となる株式会社Preferred Infrastructureを創業。2014年3月に深層学習の実用化を加速するためPFNを創業。現在はPFNの最高研究責任者として、深層学習の研究やその実用化に取り組んでいる。PFNとENEOSが共同開発した汎用原子レベルシミュレータMatlantisの販売を行う株式会社Preferred Computational Chemistry、マルチモーダル基盤モデルの開発を行う株式会社Preferred Elementsの代表取締役社長を兼任。未踏ソフト創造事業 スーパークリエイタ認定、東京大学総長賞、言語処理学会優秀発表賞、情報処理学会山下記念研究賞、KDDI Foundation Award本賞、厚生労働省 現代の名工 データサイエンティスト等、受賞多数。
「AI最前線」を日経Roboticsに連載中。著書に「大規模言語モデルは新たな知能か」(岩波書店)、「拡散モデル」(岩波書店)、「AI技術の最前線–これからのAIを読み解く先端技術73」(日経BP)、「ディープラーニングを支える技術」(技術評論社)など。
【コメンテータ: 辻井 潤一 氏】
情報科学者、産業技術総合研究所 フェロー(前人工知能研究センター長)
京都大学大学院修了。工学博士。京都大学助教授、1988年マンチェスター大学教授、1995年東京大学大学院教授、2011年マイクロソフト研究所アジア(北京)首席研究員等を経て現職。マンチェスター大学教授兼任。計算言語学会(ACL)、国際機械翻訳協会(IAMT)、アジア言語処理学会連(AFNLP)、言語処理学会などの会長を歴任、2015年より国際計算言語学委員会(ICCL)会長。紫綬褒章、情報処理学会功績賞、船井業績賞、大川賞、AMT(国際機械翻訳協会)栄誉賞、ACL Lifetime Achievement Award、瑞宝中綬章等、受賞多数。
◆塾僕武田より冒頭あいさつ◆
本日の講演テーマである「生成AI(Generative AI)と日本の戦略」は非常に魅力的な話題である。本家となるOpenAIをめぐって、いろいろな出来事があった。11月に突如OpenAIの取締役会がサム・アルトマンを解雇した。その結果、社員の大半がアルトマンと一緒に辞職する意向を示した。そしてマイクロソフトがアルトマンを自社に引き込もうとする最中にアルトマンは元のOpenAI のCEOに復帰し、取締役会の方も刷新されることになった。
「生成AI」は、英語ではGenerative AI(GAI)という言い方になる。一方、AGI(汎用AI)という人間並みの知能を持ったAIという概念もある。アルトマンは、復帰した直後にOpenAIの本来の目的であるAGIに取り掛かる、と発言している。私自身、そんな簡単に一挙にAI開発が進展するはずはないであろうと思いながらも、アルトマンはスーパーマンなので何か手があるのかなと考えている。
しかし、現在の生成AI(GAI)においても大変大きな飛躍がおきたと思っている。このような状況の中でPreferred Networks共同創業者の岡野原さんに話をしていただく。先月、通信企業のトップの方と次に出てくるAIを始めとする、いわゆる重要先端技術について意見交換する場があった。AIにおいて、特にGAIの領域で日本が世界に挑戦できるとするとPreferred Networksであろうと話をされた。
岡野原さんの講演の後に、産総研フェロー(前人工知能研究センター長)の辻井潤一先生からコメントを頂くが、実は先生は岡野原さんの師である。日本では、AIの部分的なところを摘み取って、いろいろ話をする「AI学者」と称する方々は多くいるが、日本において真にAIの全体像を把握している方は、辻井先生であると思う。
◆塾僕武田のコメント◆
岡野原さんからは、ルール作りと世界に向けての戦いが重要であること、辻井先生からは、共通した仲間作りが重要であると述べられたが、私も全く同感である。OpenAI出現後の世界は、これまでと違う次の時代に移ったのではないかと感じている。その流れの中でアメリカのバイデン政権、EUのブルトン欧州委員、中国の習近平政権は、それぞれの動きに着手している。この中で日本は、like minded countriesと、どのような連携ができるか、そのための国内体制の構築を考えなくてはならない。
また、AIの標準(スタンダード)作り、諸外国との協力が非常に重要である。日本だけでこれらAIでのスタンダードを作ることはできない。アメリカも生成AIの発展を自国のみではできないことを認めている。生成AIの広がりは、既存の政府のシステムを超えるものとして米国は、連携した体制づくりをしようとしている。
そうしたなかで日本は、産業政策を考え直さなければならない。中国の習近平政権は、半導体の貿易赤字が原油の何倍にもなっていることから危機意識を抱き、半導体の発展、そのためのルールづくりに必死になっている。岡野原さんの話にもあったように、デジタル赤字が原油の赤字を上回りだしたことは、もう一度、私たちの国づくりを考え、日本が強くなるためのデジタルでのシステム作りが必要になろう。そのための産業政策が必要である。 OpenAIの従業員は770名ほどだが、それが世界を動かしている。そういう意味で、岡野原さんや日本の若い方々が始めた企業が世界を動かすという時代は必ず来ると信じている。そうでなければ日本の将来はないと思っている。そのためには、日本の政府の役割が重要になる。
日本政府は、Generative AIが出た後の動きをアメリカやヨーロッパというlike minded countriesとの連携について話をしていかなければならない。私は中国の動向についての基本的知識がすくないため、中国については専門家の方々に、どのような競争と協力関係ができるか等の調査をやってほしい。またそのための体制づくりを政府にして頂きたい、と考えている。
今年5月のG7広島サミットの結果を受けて立ち上がった広島AIプロセスでは、AIの方向性についてのガイドラインが定められた。これは大変素晴らしいことである。ただその後、10月30日にバイデン大統領は、AIとセキュリティやリスクなど、AIが及ぼす広い領域に対して大統領令を出し、準備態勢を行うことを宣言している。そういう意味で日本政府には、産業界を大事にし、また大学も大事にしてもらいたい。経産省がスーパーコンピューターを多くの研究者に使えるようしてくれたことは非常にありがたい。そうしなければ、大学で研究はできない。 また、各国間あるいは日米での色々な連携の進め方は、グラスルーツ(草の根)でやる必要があると考えている。CET等でも、大学の先生方の力を借りることが最大のことだと思う。
また、私たちは、スタンダード作りやルール作りの重要性を忘れがちだが、アメリカやヨーロッパ、中国は、国際的なポジションに膨大な数の人を出している。それも中国は戦略的にやっている。世界に向けてもう一度、日本の強みを保つようにやって頂きたいと思う。半導体一つとっても企業はマイクロンだけではなく、インテルもあればAMDもある。私たちはひとつだけで満足してはならない。岡野原さんや他の方々がおっしゃったように、次から次へと上に上げていかなければならないと思っている。皆さんには、次の時代のために、よろしく善導をお願いしたい。
[1] https://www.soumu.go.jp/hiroshimaaiprocess/