【14 】AIへの米国の態度と戦略(1)AIが支配する世界はもう始まっている
【14】~【18】では、AI(人工知能)を巡る米中の競争について、米国の研究機関による中国の見方を紹介していく。
AIが最も威力を発揮するのはガバナンスとサーベイランス
AIについては、これまでオクスフォード大のオズボーン(Michael Osborne)の多くの労働人口が代替え可能になるという「AI雇用喪失説」から、シンギュラリティ大(Singularity University)のカーツワイル(Ray Kurzweil)の2045年にはAIが人間並みの知能を備えた「シンギュラリティ(技術的特異点)が来る」という「AIシンギュラリティ説」まで、幅広いものがあり、時々の話題になっている。
ここで取り上げるAIは既に述べたとおり、5Gとともに、現在の世界のあらゆるものを変容させる汎用技術、つまり「AI汎用技術説」に基づいている。あえてこのAIを定義するとなると、「ビッグデータ、ML(マシン(機械)ラーニング)、および人間が同じことを行う時に、人間がインテリジェントと表現する方法でマシン(機械)が動作できるようにするあらゆる関連技術」となろう。更に、「AI汎用技術説」で言えば、AIは未来の話ではなく、すでに私たちはこの技術の中にある(AIにより変容の最中である)[1]。つまり、Wazeカーナビ・交通情報提供、アマゾンの関連商品提供、そして自衛隊の最新の安全保障システムまでAIがもたらしたと言える。
実は、このAIが最も威力を発揮している分野はガバナンス(governance)とサーベイランス(surveillance)である。ガバナンスは統治、支配のあらゆるプロセスをさし、組織(企業、政府)だけでなく、ITシステムから領土、あるいは権力保全まで含めたものとなる。また、サーベイランスは必要な状況を正確かつ継続的に調査・把握を指す。これらには深い関係があり、AIはガバナンスをよりインテリジェントにし、また、インテリジェント化したサーベイランスにより、更にガバナンスはインテリジェント化する。そして、オーウェル(George Orwell)のビッグブラザーの世界は現実のものになる[2]。
アマゾンのベゾスと中国共産党の習の共通点
巨大テクノ企業アマゾンを率いるベゾス(Jeffery Bezos)と中国共産党(CCP)を率いる習(近平)は全く異質に見えるが、「重要な点での共通性」がある。共に、彼らのガバナンスとサーベイランスにAIを導入しだしたことである[3]。
もう少し、この議論を続けよう。つまり、ベゾスは1億人以上のアマゾンプライムのメンバーを有し、一方の習は9,000万人の共産党員を有している。彼らはこれら「比類のない規模のメンバーを募集、その組織の保持と管理」をしている。どちらの場合も、メンバーは広大な地域に散らばっており、年会費を支払い、必要に応じて辞めることができるため、(ベゾスも習も)彼らの思い入れ(投資)に対するリターン、つまり「メンバーを喜ばせ・繁栄させる」が必要になる。サーベイランスは、彼らの組織に対して、そのグリップを強化させ、また、組織内部からの反対・反発という脅威に対処する方法の手がかりを提供する。ベゾスは、「ML(マシンラーニング)とAI(人工知能)は、自分たちが行うほとんどすべての背後にある」と率直に述べた。
これは、両社だけでなく、FAANG[4](フェースブック、アマゾン、アップル、ネットフリックス、グーグル)やBAT(バイドゥ、アリババ、テンセント)のリーダーたち、そして中国からガバナンスとサーベイランスのテクノロジーを手にした権威主義国のリーダーたちにも、共通している。
これ以上は止めるが、AI汎用技術説では私たちがどの程度このことを認知しているかは別にしてAIが支配する世界に入っている。
[1] Peter Drucker 風に言えば、すでに起きた未来。
[2] グーグルの前CEOシュミットは、大意旧ソ連のリーダーたちが、もしこれらのAIを手にしていれば冷戦の行方は逆になっていたかもわからない、とした。
[3] 先のシュミットによると全世界の74カ国は既にAIサーベイランスを導入。半分は先進民主国。
[4] 日本ではGAFAが定着したが、米ではFAANG