【限界打破のイノベーションIOWN構想について】第51回(2020/9/8) 無名塾(オンライン)
テーマ:限界打破のイノベーションIOWN構想について
Innovation beyond the limitation, the IOWN initiative
講師:川添雄彦 (NTT常務執行役員、研究企画部門長)
Takehiko Kawazoe (Senior Executive Officer, Head of Research Planning Division, NTT)
◆―日本のデジタル戦略を考える―◆
2020年9月「無名塾」において代表武田の冒頭抜粋
本日は、NTTの川添常務からIOWN構想の話を伺う。これは電子だけでなく、光、光子を使ったネットワークで、5Gの次の6G構想となる。
ネットワークは、AI、コンピュータと同じように、デジタルテクノロジーの核となる。新たに菅総理が決まったがデジタルを進める政策が中核になると考えている。残念ながら、これまでの日本のデジタル戦略は有効に機能してきたとは言えない。本会ではもう一度、デジタルとは何か、あるいはデジタル戦略について確かめ考えていくこととする。
戦略の前提となるデジタルテクノロジーの本質は「基幹細胞」であるということ
戦略を立てる前に、デジタルテクノロジーとは何か、その本質を把握する必要がある。これは従来のテクノロジーとは異なる性質を持つ。
幹細胞Stem Cellは、通常の細胞と違い、身体を構成する様々な器官へ分化、differentiationする。同じように、デジタルテクノロジーも運輸、食料、医療、教育など、様々に進化・発展し社会を構成する基幹システムとなる。通常のテクノロジーではそのようなことは起きない。
なお、話題のDX、デジタルトランスフォーメーションの提唱者エリック・ストルターマンは「デジタルの浸透は個々ではなく、社会全体をトランスフォーム、変身させる」とした。5Gや6Gへの通信の深化発展は、通信だけでなく医療、外交、教育といった幅広いシステムを変容させる。
最優先すべきイノベーティブな環境づくり
DXを進めるにはデジタル戦略が必要である。その一つは、先行優位=First Ⅿover Advantageがある。「2位じゃダメなんでしょうか」では通用しない。FMAが国運を左右する。もちろん、先行開発のためには、IOWNでもそうだが膨大な研究費がかかる。それだけでなく、国際的なルールや基準づくりや厳しい国際競争の中で勝ち抜く必要もある。しかし先行できれば、これらを補って余りあるAdvantageが得られる。これは、NTTだけではなく、関連企業また日本全体に及ぶ。重要な点は、売上げが伸び、税収が増えるというより人や企業をイノベートにさせる繁栄への環境、プラットフォームができるからである。
GAFAと呼ばれる巨大デジタル企業が米国に出た。多くの人は、これをスティーブ・ジョブズやジェフ・ベゾスやラリー・ページに結びつけるが、実は、彼らの能力はこのプラットフォームの中で初めて開花した。3Gサービスは 2001年にドコモが世界で初に始めたが、米国通信企業は2005年には追いつき、4Gでは完全に先行しだした。この間に米国のプラットフォームができた。世界のデジタル分野でのトップ20社のほとんどは米国勢である。次に中国にもBATと呼ばれる巨大デジタル企業が生まれ、近年これに続くものが続出し、世界のデジタルトップ20社のうち中国勢が6社を占めだした。ここにも繁栄のプラットフォームができていた。
中国企業の台頭と米中摩擦
これをもたらしたのが、話題のファーウェイである。10数年前から、5Gの基礎研究を行い、特許を取り、他の中国企業に呼びかけて国際的な場で標準作りを進めた。中国政府、その上にある中国共産党は、あらゆる手段で支援した。その結果、中国のデジタル戦略は成功し、中国式5Gが世界をリードし、また中国式AIもアメリカと並びだした。
「別に中国式でもいいではないか、良いなら使えば」という人がいるが、デジタルは、システムの原点となることを考える必要がある。事実、中国式5Gの採用は、バックドアが当たり前のダーティなネットワークへの入り口となる。また、中国式AIの採用は、中国共産党があらゆるデータをコントロールし、個人の自由や尊厳を認めない世界への入り口となる。既に、中国への朝貢、冊封外交が始まっているとの見方が欧米の識者の間に出ている。
ことの深刻さに気付いたトランプ政権は対中国強硬策をとり、なりふり構わずのファーウェイ叩きに走り出した。中国に対する米国の不信感は強くなっただけに、11月の大統領選の結果とは無関係に、この政策は継続される。ただ、この方式では繁栄のプラットフォーム作りはできない。
日本式デジタル戦略の伸展のために、産官学の協力が不可欠
現下の国際情勢下、NTTのIOWN構想が、不透明な中国式デジタル戦略ではなく、互恵性と透明性を担保した日本式デジタル戦略への道をたどって頂きたいと考える。このためには、NTTだけでなく、関連企業や大学の努力が大事である。さらに、日本政府の役割も重要となる。詳しい話は省くが、政府の役割が大事なのは中国だけではない。忘れられがちだがコンピュータ、ネットワーク、AIもすべては、米国や英国政府がそのきっかけとなる研究の場を作った結果である。
(抜粋から)