【17】AI(人工知能)への米国の態度と戦略(4)CCP(中国共産党)のAI戦略

 米国の政策決定コミュニティの間では最近のAIをはじめとする中国の動向に多くの関心が集まっており、表面的な報告ではなく、より深く、中国の内的な部分に立ち入った報告書が出されだした。ここでは、その一つ、アレン(Gregory C. Allen)の「中国のAI戦略の理解;AIと国家安全保障への中国の戦略的思考への手がかり」[1]を紹介しておきたい。それは、習主席を始めとするCCPのリーダー、そしてCCPをまもるPLA(人民解放軍)が「AI汎用技術説」についてどこまで理解し、また、その推進を行っているか、という報告である。

アレンはこの報告書を出した2019年2月時にはCNAS(Center for New American Security)のシニアフェローであったが、同年の9月にDoD(米国防省)のJAIC(人工知能センター)の戦略・コミュニケーション部門のチーフに就いている。JAICは、“AIによるDoD(米国防総省)の変革”の達成のために創設された機関で、悪意あるサイバー攻撃からの米国重要インフラの防護、産業界、学界、同盟国とのパートナーシップの確立、あるいはDoDでのAIのエキスパーツの育成、また、AIの倫理と安全性の確立といった多様にわたる。

アレンはこの論文を発表した理由を次のように述べている…大意「自分はCNASで中国のAI産業やその政策を研究していたが、2018年の後半に、中国を4度訪れる機会があり、AIでの外交、軍事、および民間での会議に出席、中国の外務省、軍事AI研究関係者、シンクタンクの専門家、中国のAI企業の企業幹部と多くの会合・意見交換の場をもった」…これらの機会を通じ「一般的な米国での中国のAIに取り組みに関する理解と解説とこの時に彼が見てきたものとの間に大きな差があると感じた…もちろん、中国のリーダーといってもその見解が一本化されているわけではなく、また、単純化することは危険がおこる」が、それでも、自分がその時に感じたことを直接まとめることで、中国がAIをどう扱っているのか、米国の政策決定コミュニティに利益をもたらすと信じた」とした。筆者はこの論文は、日本の政策決定コミュニティにも利益をもたらすと考えている。

中国AI事情を知る16のポイント  

中国AI事情を知る16のポイント

アレンは中国のAI事情を16点あげた。日本ではこの種の議論が極めて少なく、そのきっかけとなるためにも、ここで紹介する。

1.(習近平主席を筆頭にした)CCPのリーダーたちは、中国がAI技術で世界のトップにあることが自分たちの軍事・経済上競争における最重要課題とした

・中国政府(国務院)が2017年7月にだした、「AIDP(新世代人工知能開発計画:New Generation Artificial Intelligence Development Plan)」[1]2015年5月に同政府がだした「MIC2025; 中国製造2025」とともに、AI戦略のコアであるとした。なお、AI計画に費やした中国政府の総予算は公表されていないが、彼は数百億ドルと推定している[2]。また、政府に並行して動く地方政府も相当額の予算をつけている。

・AIDP (新世代人工知能開発計画)は、「AIは国際競争の新たな焦点となった。AIは、将来をリードする戦略的テクノロジーである:世界の主要先進国は、国家の競争力を高め、安全保障を守るための主要な戦略」と位置付けている。

・中国政府機関は米国政府のAIに関する政策を定期的に翻訳、分析、解説を加えたAIに関するレポートを作成、幹部に配布している。アレンは彼が会った関係者は、米政策にも通じ、また十分に米国事情を理解していたとした。そして、彼は米国でも、中国のAIへの考え方を知る上で、同様のことをすべきとした[4]

 2.同様に、AI技術での海外技術依存の脆弱性は減じる方向:

・2018年10月に習近平はAIに関する政治局(Politburo)の研究セッションを開催し[5]、この研究セッションでも、「AIDP;新世代人工知能開発計画」と「MIC2025; 中国製造2025」の主要な結論は中国はAI技術で「世界をリードするレベル」[6]に達成し、脆弱な[外部]依存を解消すべきである、を繰り返し指摘している。また、習は「自国の欠点構造にしっかりと注意を払い、重要でコアなAI技術は私たち自身の手で把握しておく必要がある」とした。なお、中国の海外技術への依存についての議論は、この後でも取り上げる。

 3.CCPのリーダーたちはAIでの軍拡競争への懸念を示し、新しい規範づくりと潜在的な軍縮管理への国際協力を必要とする:

・この例として、2018年7月15日に開催された国際関係会議の基調講演で、人民会議外務委員会委員長フー・イン(Fu Ying,付瑩)[7]は「中国の技術・政策立案者は、AI技術が人類への新たな脅威である」としており、「国際的な協力が必要」とした。

・これは彼女のスピーチだけではなく、他の外交官や軍関係者たちにも広く反映されており、アレンは、別のシンポジュウムでもPLAのシンクタンクの上級研究者が、サイバーセキュリティおよび軍事ロボット工学におけるAIシステムの「武器管理に似たメカニズム」への支持を表明した、とした。

・このような懸念は中国の民間部門にも及んでおり、アリババのマー(Ma,馬)会長は、2019年のダボス世界経済フォーラムでのスピーチで、AIをめぐる世界的な競争が戦争につながる可能性があることを懸念しているとした[8]

 4.軍拡競争への懸念を表明しているにもかかわらず、彼らは“AIの軍事的使用の増加は避けられないと見ており、その研究”を進めている。また自律型兵器(armed autonomous platforms)とAI監視技術を輸出へ:

・「インテリジェント化」という用語は、彼らにとり情報技術に基づく軍事技術の新しい段階を意味する[9]

・AIDPの中では、中国は「あらゆる種類のAI技術を促進して、国防革新に着手する」とされており、中国の大手の防衛企業(Norinko)[10]の上級役員(Zeng Yi)は「将来の戦争で戦う人はいない」…2025年までには致命的なダメージを与える自律型兵器が当たり前になると予測し、彼はAIの軍事使用は「避けられないし、その方向に未来はますます増加すると確信している」と述べた。中国政府は、次世代のステルスドローンが利用可能になったら輸出するとした。CCPのリーダーらは軍事的ドローンと軍用ロボットへ今後一層広範なAIと自律機能の搭載を目指している。

・現在、中国政府は、監視アプリケーションではAIを広く利用している。PLA武装警察のWang Ning(王寧)将軍は、新疆でのAI使用について自慢げに、「自分たちは、新疆地区で、ビッグデータとAIを使用しテロリストと戦っている…これらのテクノロジーを用い、攻撃を計画している1,200のテロ組織を予めチェックできた。また、スマートシティシステムなどの導入で、テロリストの活動を特定できるようになった」と話した。また、海外からの訪問者用には顔認識システムを合わせ発達させた、とした。

・新疆(ウイグル自治区)では、二千万人余の中国ウイグル族が住んでいるが、AI監視技術によって彼らは監視され、迫害の対象となっている[11]

・AIをもちいたコンピュータービジョンのトップメーカーのセンスタイム(SenseTime)社は、中国政府への積極的情報提供者であり、中国ではセンスタイムのセキュリティおよび監視製品は、しばしば「スマートシティ」との婉曲語法として使われている。センスタイムが監視技術を輸出する主要な国には、ラテンアメリカ、アフリカ、アジアの政府、並びにそのマーケットがある。なお、センスタイムは、自動運転車に関連するコンピュータービジョンやMLなど、セキュリティ以外の製品も多数販売している。

・一方で中国は自律兵器を極めて狭義に定義し、自分たちが開発中のAI自律兵器への該当するのは巧妙に避けた。つまり、中国はギャンビットで[12]、世界のメディアには自国の平和主義の宣伝を行い、同時に、自国が開発している高度な軍事AIと自律兵器の開発への批判を回避させた[13]

・アレンはオクスフォード大の研究者ディング(Jeff Ding)のレポート[14]を引用し、中国のAI研究者は西側の同僚より、この問題に対しての懸念は少ないようである、とした。

5.中国の国防省は、国防技術大学(NUDT)の下で“AIと無人システム”に焦点を当てた2つの新研究機関の設立;

・防衛技術研究所(NIIDT、NUDTの子会社)は、AIと関連技術の軍事利用に焦点を当てた北京に拠点を置く2つの研究機関を設立し、急速に成長させている。これらは、Yan Yeが率いる無人システム研究センター(USRC:Unmanned Systems Research Center)と、Dai Huadongが率いる人工知能研究センター(AIRC: Artificial Intelligence Research Center)である[15]。各組織は2018年初頭にスタートし、現在、100人以上の研究スタッフが在籍[16]している。これは、世界で最大かつ最も急速に成長している中国政府AI研究機関の1つである。ただし、中国と米国の両方に、より大きな民間セクターではAI研究組織がある。たとえば、センスタイム[17]には約600人の常勤の研究スタッフがいる。一方、AIの研究に焦点を当てたグーグルの子会社の DeepMindの総従業員数は約700人、年間支出は4億ドル(アレンによると、センスタイムは関係予算を明らかにしなかった)。

・なお、AIRCの予算を見積もることが難しい。が、 スタッフには、ML(マシンラーニング)、ロボット工学、スウォームネットワーキング、ワイヤレス通信、およびサイバーセキュリティ関係者がおり、AIテクノロジーの基礎研究に従事している。いうまでもなく、AIテクノロジーはデュアルユースで、おそらく中国の軍事情報機関の機密作業も行っているとアレンは推測。

6.中国政府はAIの導入を中国軍にとっては「リープフロッグ(蛙飛び)的発展」の絶好の機会と見ている。米国よりも軍事的優位性をもたらし、また、これらの技術では米国よりも中国の方が導入は容易、とした:

リープフロッグは、次世代の技術が導入された際、実際に現在の世代の技術に遅れをとっている国が開発段階をスキップ・発展させる、を意味する。この例には、固定電話がほとんど普及していない国では携帯電話技術の急速かつ広範に普及する、ことがあげられる。先に引用した中国で活躍するAIのベンチャーキャピタリストで「AIスーパーパワー」の著者の李は、中国での信用調査などの多くの既存の経済機能の欠如が、AI機能を活用しようとする中国のベンチャー起業家の洪水につながっているとした。その結果、「中国ではそれまで(プラスチック製の)クレジットカードはほとんど普及しなかったが、それが(カードを飛び越した)顔認識の(携帯による)支払い方法の普及につながった」、と。

・飛躍的なテクノロジーを可能にするAIに対する中国の重点は、国家安全保障アプリケーションにまで及ぶ。中国は2017年国家AI開発計画において、AIを国家安全保障の飛躍的技術の「歴史的機会」と特定している[18]

・中国のAI飛躍戦略には、AIを利用し投資先を決定する、がある。これまでにも技術的スパイシステム、低コスト・長距離・自律型・無人潜水艦の開発が決定された。中国は、これらのリープフロッグで既存の米国の空母戦闘軍団を脅かす安価・効果的な手段となると考えている。繰り返すが、中国は軍事面でのAIの活用を、米軍事力の基本を脅かすための安価・効果的な手段だとしている。

7.彼ら(中国政府と関連企業とも)は、AI のR&Dと商用AI製品のレースにおいては、自分たちは米国とのギャップをほぼ埋めたと考えており、米中をAIの「2人の巨人」と喩えている:

・中国の2017年7月の国家AI戦略で、中国が「AI産業の競争力が国際的な段階に突入」するのを2020年の目標に設定した。実際、中国のリーダーたちは、2018年半ばの時点で既に中国はこの目標に達成した、と評価。

・清華大学の研究者(Xue Lan)が中国のAIセクターの状況に関する清華大学のレポート[19]で説明したが、「中国は、これらの技術の開発および市場への応用で主導的地位を確保している」。注で、清華大学(中国科技政策研究中心)のレポートによる中国のAI状況を見ておく。

 注;清華大学レポートによる中国のAI状況;

  • 全AI研究論文数および高引用数の論文数の両方で世界1位
  • AI特許数でも1位
  • AIベンチャーキャピタル投資でも1位
  • AI企業の数で2位。

 

8.アレンは、中国のAI研究および商用アプリケーションでの現在の地位を獲得したのは、彼らがグローバル市場へアクセスができたことと、グローバルな研究開発協力により達成できた、とした:

・中国も、自分たちの成功がグローバルな技術研究と市場へのアクセスにより可能になったことを自覚している…AIの成果の多くは、実際には多国籍の研究チームや企業の成果であり、グローバルな協力体制は中国の研究の進展にとって重要[20]

・前出の清華大学のレポートでは、中国のAI研究者(多くの場合、海外で学位を取得したトップ層)の半分以上が中国人以外との共同論文。中国人だけの論文でも、それを可能にしたのは、グローバルなグループにより開発されたオープンソース技術があるとした。

 9.中国の自覚する自分たちの弱点;彼ら(中国のリーダーたち)は、自分たちがAIの研究開発および商用アプリケーションでは成功しているがトップ人材(top talent)、技術標準(technical standards)、ソフトウェアプラットフォーム(software platforms)、および半導体(semiconductors)では未だ米国に遅れている、とした;

・中国がだした2018年1月の「人工知能の標準化に関する白書」で、中国のAIエコシステムは重要な分野では「遅れが顕著」とした。

・AIの音声認識、視覚認識、中国語情報処理などの分野では自分たちでブレークスルーを達成し、アプリケーションでは広大な市場環境を有したが、「AIをブレークさせる」開発力のレベルは依然として米国に遅れている。先の精華大学のレポートでは、中国の強みはAIアプリケーションで、ハードウェアやアルゴリズムの開発など、AIのコアテクノロジーの面では劣っているとした。アレンは自分が出席した多くの会議でも4つの課題、才能開発、技術基準、ソフトウェアプラットフォーム、半導体が取り上げられた、と報告。

注;中国が自覚する自分の弱点へとその対応策については、ここでは省いたが、弱点に対する中国の対応策もでている。これらについては、別途の報告書で取り上げる予定。

10.中国の短期目標としては、海外技術へのアクセスの維持であるが、今度はその依存度減少を目指すターゲットにした:

つまり、彼らは、海外技術へのアクセスにより自国のレベルを高めようとしているが、一方で、中・長期的には国内的技術独立を促進する必要がある、とした。

・海外依存性への低下は長い間中国の目標にすぎなかったが、近年は、この達成を喫緊の課題としだした。事実、中国科学アカデミー事務局長代行Tan (Tan Tieniu)は2018年11月の第13回国民人民代表大会常任委員会でのスピーチで「技術基準、ソフトウェアフレームワーク、および半導体における遅れが、中国を脆弱にし、代用となる国内技術を発展させる必要性がある」とした。

11.中国の海外技術依存度削減戦略は、「グローバル市場で中国製スマートフォンのシェア拡大と、更に高度な半導体設計の達成をもたらし、ひいては中国への実益をもたらす、とした:

・2011年に、携帯電話の販売で関連各国の収益のシェアの調査を行っているが[21]、中国の企業の収益は2%未満にすぎなかった。ただ、2017年に、(アップルの競合種である)ファーウェイの「フラッグシップP9」では、各デバイスの収益のほぼ半分は中国企業。

・中国は、これまで携帯電話のオペレーティングシステムでの主要なプレーヤーではなかったが、テンセントのウィチャット(WeChat)アプリではそのオペレーティングシステムを有しだし、(中国で)広く普及した。

・半導体のバリューチェーンに設計、製造、およびアセンブリの3セグメントがある。中国はアセンブリのプレーヤーであったが、最近、ファーウェイはKirin 980[22]等の高品質で競争力のある半導体設計を行いだした。

・中国の最大の半導体メーカーであるSMICは、2020年代初頭には最先端の7nm処理技術を得たいとし、グローバル競合他社に接近している。

12.将来のAI競争の中でチップは重要な役割を果たす。中国は軍事AIアプリケーション以外にも、最先端はカスタムコンピュータチップに依存しだしており、戦略的なAI競争の将来の焦点は半導体産業、とした:

・中国企業と政府研究所は、高性能コンピューティング、特に高性能AIコンピューティングに強い。たとえば、中国のセンスタイムは2018年12月に、その総計算能力がオークリッジ国立研究所の世界トップクラスのスーパーコンピューター(122ペタフロップス)を超える160ペタフロップス以上であることを明らかにした[23]。このような数値は、センスタイムがコンピューティングインフラストラクチャに数億ドルを費やしたことを示している。
・世界のGPU(Graphics Processing Unit)のほとんどは米国のNVIDIAによって設計され、一部、台湾のTSMCによって製造されており、現時点では、中国にはGPUのメーカーやデザイナーはでていない。しかし、これは中国がこの面でのハンディを負っているわけではない。

注 AIチップの世界の傾向

  • AIチップで新たな動きがおきている。それは、NVIDIAを牽制する意味もあり、グーグルは「TPU(Tensor Processing Unit)」というAIチップを開発、それを「アルファ碁(AlphaGo)」の学習処理として用い、省電力性、学習スピード、性能の高さをアピールしたことから始まる[24]。アマゾンなどでもアクセラレータ・チップに特化した設計部門を発足させだした。
  • GPUは、AIアプリケーションを実行するためにカスタム設計されたチップと競争状態にあるが、コストだけでなく、性能的にもTPUが優れているといわれている。更に、より旧式のプロセステクノロジーで製造された場合でも、AIアプリケーション用のGPUよりも劇的に高いパフォーマンスを示す(たとえば、先のグーグルのTPUでは、すでに中国でも広く利用されている28nm(ナノメートル)のプロセステクノロジーを使用して製造された。そのため、中国のバイドゥ、アリババ(子会社Pingtouge)、ファーウェイ(HiSilicon子会社)でもAIアクセラレータ・チップの開発に焦点を当てた半導体設計部門を設立している。また、中国のAIチップスタートアップであるホライズンロボティクス(Horizo​​n Robotics)とカンブリコンテクノロジー(Cambricon Technologies)は、数十億ドル規模の評価。また数億ドルのベンチャーキャピタル資金を調達した[25]

 

13.中国のAIと半導体の将来性としては、AIチップ市場における中国の将来性は明るく、おそらく半導体業界全体よりも良い、とした:

・「MIC2025; Made in China 2025」で示されている中国の目標は、2030年までに国内消費のシェアとして国内の半導体製造を80%に増やし、TSMCなどの台湾企業への依存を含むすべての外部依存を減らす、とした。

・AIチップの重要性の理解は、先の清華大学の報告書でも、「中国でますます広まっている」とした。事実、この報告書は、AIチップの戦略的重要性を強く強調している。

・これは、「アルゴリズムの実現、取得と大規模なデータベース、またはコンピューティング機能のいずれであっても、AI産業の急速な発展の秘密は、唯一の物理的基盤、つまりチップ」にある。同時に、中国は「AIチップの成功を活用し、優れたコンピューティング能力、大規模なデータセット、より有利な規制環境に支えられたAI業界全体で永続的な競争上の優位性を構築したい」、としている。これは、中国政府とAI企業にとり優先度の高い分野になる。たとえば、中国のAIチップスタートベンチャーのホリゾンタルロボット(Horizo​​n Robotics)のCEOのYu Kaiは、中華人民共和国科学技術部(MOST)[26]の AI の戦略アドバイザー委員会の有力なメンバーである。

 

14.彼ら(CCPのリーダーたち)は、中国のAIと半導体では(米国に比し)遅れているが、現在の傾向が続けば、ギャップは縮まると考えている。これらの分野は彼らの最優先事項であり、今後とも彼らの関心とその投資を受けることができる、とした:

・AIと半導体の分野で、中国は国内企業と主要なグローバルな企業とのギャップを劇的に縮小させた。「米国の政策に(競争力を高めるための)大きな変化、あるいは中国の劇的な経済危機でもない限り、今後5年間で中国は多くのAIアプリケーションマーケットで優位性を確保」しよう。

・2014年に中国政府は、中国の半導体での海外依存を軽減させるために、国家集積回路産業投資基金(national integrated circuit industry investment fund)を設立した[27]。初の基金としては1,387億人民元(205億ドル)であったが、2018年には3,000億人民元(445億ドル)の第二の基金を設立。トランプ政権のZTEに関する半導体輸出規制を含む一連の動きでだけでなく、2015年4月のオバマ政権の「中国のスーパーコンピューティングに関連する半導体輸出停止」の措置の後、この動き強化させている。

・アリババの共同設立者の馬(マー)は「チップマーケットは米国人により管理されている…彼らが販売するのを中止したら、それがどういう意味をもつのか、あなたも理解できるでしょう」。どの国にもこのコア技術は必要とした[28]

 

注 今後の中国の知財窃盗での動きとそれに対する対策

  • アレンも中国では成長手段の一つに知的財産の窃盗が織り込まれており、たとえば、台湾の半導体メーカーTSMCの秘密をリークしたと特定されている人物を半導体メーカーSMICの共同CEOとしてスカウトした、としている[29]
  • なお、アレンはサムスンの半導体ラボを視察したとき、関係者から、知財窃盗が重大な脅威であり、彼らはラボ内で使われているすべての用紙には、出口ドアの金属探知器でデテクトする金属を織り込んでいる、の話を聞いている。

 

15.敵対的なマクロ経済要因と中国での潜在的な金融バブルは、中国AIセクターの成長を減速させる可能性がある、とした:

・中国の強みの一つに、ベンチャーキャピタルとテクノロジーの起業家エコシステムがある。中国のAIスタートアップは2017年には、グローバルなAI株式投資のシェアの48%で、米国のAIスタートアップは38%であった。

・しかし、中国の投資は少ない企業に集中し、また、そのほとんどは収益性に比し、高すぎると言える評価。そのため、世界、あるいは中国の大手投資企業のなかには、これを中国テクノロジーでの金融バブルではと懸念しだしている(一因は、収益成長に対してではなく、容易なアクセスにより達成)[30]

・2018年下半期に、北京の主要なテクノロジー地区ではオフィスの不動産価格の下落と広範囲にわたるレイオフの報告もあった[31]

・より広範なマクロ経済環境でも、低成長と米国との貿易紛争がおきている。主要なテクノロジーセクターの低迷や経済不況がおき、中国の政府や企業は競争力の向上に必要な研究開発投資を賄うことが難しくなる可能性がある。

 

16.習らCCPのリーダーたちは、自分たちの政治力を保つうえで商業用AIの成功が最重要、とした:

・更に、彼らは、商業用AIおよび半導体市場での中国の成功は、その地政学的な力と軍事およびスパイAI能力に直接関連する、とも。

・中国の商業マーケットの成功は、直接に中国の国家安全保障に関連する。これは、米政府の中国への外交的および経済的圧力を低下させ、一方で中国の軍事および情報機関の技術能力を高める。なお、後者に関しては、中国のすべての主要なテクノロジー企業は中国の軍事および国家安全保障へ全面的に協力し、かつそうすることを法的に義務付けられている(中国国家情報法第7条で、政府にその法的権限を与えている)[32]。そのため、MCI(軍・民統合; Military-Civil Integration)は中国国家AI戦略の最重要基礎の1つとした。

・一方、中国政府は2018年に、バイドゥ(Baidu)、アリババ(Alibaba)、テンセント(Tencent)、センスタイム(Sense Time)、およびアイフライテク(iFlytek)を公式に「AIチャンピオン」の座につけるとの(注目すべき)発表をした。チャンピオン企業(注で取り上げた)には国家技術基準を設定する特権的地位と、国有企業との競争に脅かされないとの自信を与えることを意図している。

注:中国政府の「AIチャンピオン企業」とその認定分野

  • 中国政府(中華人民共和国工業情報化部;Ministry of Industry and Information Technology)は2030年までに米国とのAIギャップを縮めるために必要な17の分野を特定し、2017年より、特定企業をAIチャンピオンに選んだ。現時点(2019年9月)で、バイドゥ(自律走行車)、アリババ:スマートシティ/テンセント:コンピュータ診断/アイフライテク:音声認識/ファーウェイ、センスタイム:知的ビジョン/シャオミン:スマート家電/Com:スマートサプライチェーン/奇虎(Qihoo):オンラインセ-フティ/メグビー(曠視科技):顔認識/ハイクビジョン:ビデオ認識/YITUテクノロジー(依図科技):イメージパーセプション等、がある。

なお、これらの企業は政府から上記特典を得ている。

 

・センスタイムの共同設立者のBing Xu[33]は、「自分たちは、AIという今後20年間に不可欠なテクノロジーの発展に取り組む民間企業であることを幸運に思っている。これまでの政府は原子力、ロケットといった技術を支配しようとし、民間企業を信頼していなかった」とした。

・アレンはBingが、AIを核技術やロケット技術と明示的に比較することで、AIが国家安全保障に与える重要性を示唆した、とした。これらのAIチャンピオン企業が中国のテクノロジーを支配することを許可されている代償は、中国の国家安全保障(つまり中国軍)のコミュニティとの広範な協力である。これらは、直接的な協力だけでなく、商業AIおよび半導体市場での成功が中国に資金、才能、規模の経済をもたらし、そのグローバルマーケットへの脆弱性を軽減し、武器およびスパイ開発に役立つ技術を提供する。

最後に、アレンの論文の内容を再確認しておこう。それは、彼が中国政府や企業関係者とのやり取りの中で、CCPのリーダーたちは、一様に「AIを最も高度の戦略的優先事項とみなし、このために、あらゆるリソースを投入している」。そして、習はレトリックでAIを推進しているのではなく、自信と確信の中で推進しているともした。

 

[1] Gregory C. AllenUnderstanding China’s AI Strategy;Clues to Chinese Strategic Thinking on Artificial Intelligence and National Security)https://www.cnas.org/reports?author=gregory-c-allen

[2] 「次世代人工知能発展三カ年行動計画(2018~2020年)」“Full Translation: China’s ‘New Generation Artificial Intelligence Development Plan,’” New America, August 1, 2017. https://www.newamerica.org/cybersecurity-initiative/digichina/blog/full-translation-chinas-new-generation-artificial-intelligence-development-plan-2017/.

[3] Meng Jing, “This Chinese City Plans a US$16 Billion Fund for AI Development,” South China Morning Post, May 16, 2018,

https://www.scmp.com/tech/innovation/article/2146428/tianjin-city-china-eyes-us16-billion-fund-ai-work-dwarfing-eus-plan. なお、中国政府の総支出は公表されていないが、アレンは数百億ドルと推定しており、少なくとも2つの地方政府がそれぞれ1,000億元(約147億米ドル)の投資を行うとした。

[4] 1980年代、日本が品質管理、あるいは半導体の製造で世界のトップに立った時、米議会では日本の関連資料の英訳のための予算をつけた。

[5] 同国でこのようなセッションの開催は、リーダーたちが外部の専門的知識の利益を必要とする優先度の高い政策問題を取り上げる時に行われる。

[6] Webster et al. (transl.), “Full Translation: China’s ‘New Generation Artificial Intelligence Development Plan.’”

[7] フ―・イン(Fu Ying,付瑩)は政治家、外交官、フィリピン、オーストラリア、イギリスの大使、および外務次官。現在、全米人民会議外務委員会の委員長。米国のシンクタンクでの講演なども行っている。

[8] 馬会長は、産業革命は大戦につながるとし、「第一次大戦は第一次産業革命の結果であり、第二次産業革命は第二次大戦をもたらした。現在は、第三次産業革命の最中である・・」とした。See Ryan Browne, “Alibaba’s Jack Ma Suggests Technology Could Result in a New World War,” CNBC, January 25, 2019, https://www.cnbc.com/2019/01/23/alibaba-jack-ma-suggests-technology-could-result-in-a-new-world-war.html.

[9] Elsa Kania, AlphaGo and Beyond: The Chinese Military Looks to Future ‘Intelligentized’ Warfare June 07, 2017. https://www.lawfareblog.com/alphago-and-beyond-chinese-military-looks-future-intelligentized-warfare.

[10] NORINCO is the third largest defense company in China and the ninth largest worldwide.

[11] Maya Wang, “Interview: China’s Crackdown on Turkic Muslims,” Human Rights Watch, September 10, 2018. https://www.hrw.org/news/2018/09/10/interview-chinas-crackdown-turkic-muslims.

[12]  チェスの用語、序盤でコマを1つ(時には複数)相手にわざと取らせる事により、他の面での優位を得る。定跡化したもので、その場で考えるものではない。

[13] 上記、中国が提出したポジションペーパーの英語での分析は Elsa. “China’s Strategic Ambiguity and Shifting Approach to Lethal Autonomous Weapons Systems,” Lawfare, April 20, 2018, https://www.lawfareblog.com/chinas-strategic-ambiguity-and-shifting-approach-lethal-autonomous-weapons-systems.で見ることができる。

[14] https://www.fhi.ox.ac.uk/wp-content/uploads/Deciphering_Chinas_AI-Dream.pdf

[15] Dr. Dai is also a professor of computer science at the NUDT College of Computer Science

[16] つまり、合計で研究者は200名を超える。

[17] 商湯科技香港中文大学情報工学科の湯暁鴎(Xiaoou Tang)教授のプロジェクトが商業化して香港サイエンスパーク英語版)で立ち上げた会社。2014年6月に湯らは世界で初めて人間のの認識能力(97%)を超える精度(99.15%)を持った画像認識アルゴリズムを開発したと発表、同年9月の世界大会のImageNetグーグルに次ぐ2位の成績をおさめて翌月に会社を設立、2015年と2016年には優勝し、世界で最も価値の高いAIスタートアップとなった。

[18] 同報告では、中国は「AIの発展という歴史的な機会を確実に掌中にすべき」とした。

[19] China Institute for Science and Technology Policy, Tsinghua University, China AI Development Report 2018, Tsinghua University, July 2018

[20] 中国だけでなく、西側にも言える。ただ、その度合いには相当に差がある。

[21] Kenneth Kraemer, Greg Linden, and Jason Dedrick, “Capturing Value in Global Networks: Apple’s iPad and iPhone,” ResearchGate, July 2011,

www.researchgate.net/publication/265187229_Capturing_Value_in_Global_Networks_Apple’s_iPad_and_iPhone.

[22] 64ビットARMベースのシステムオンチップ(SoC) 。ベルリンで2018年9月初頭に開催された家電展示会「IFA 2018」において発表。

[23] In June 2018, Oak Ridge announced that its Summit supercomputer had achieved 122 petaflops in the Linpack benchmark test. SenseTime’s aggregate computer network is not capable of utilizing all of its computing power to work simultaneously on a single software problem such as Linpack, so this is not an apples to apples comparison, though it remains informative. “ORNL’s Summit Supercomputer Named World’s Fastest,” Oak Ridge National Laboratory, June 25, 2018, https://www.ornl.gov/news/ornl-s-summit-supercomputer-named-world-s-fastest.

[24] グーグルは2017年に、第1世代のTPUを開発。これは、最新のGPUの15〜30倍高速で、AIワークロードの電力効率が30〜80倍高い。

[25] Jill Shen, “Briefing: AI Startup Horizon Robotics to Raise $600 Million in Series B Funding,” Tech Node, January 15, 2019, https://technode.com/2019/01/15/ai-startup-horizon-robotics-funding/.

[26] 中華人民共和国科学技術部が上記AIDPの推進を担当。

[27] “Guideline for the Promotion of the Development of the National Integrated Circuit Industry,” China State Council, 2014, https://members.wto.org/CRNAttachments/2014/SCMQ2/law47.pdf.

[28] Yuki Nakamura and Yuki Furukawa, “Jack Ma Says Nations Need Tech to Sidestep U.S. Grip,” Bloomberg.com, April 25, 2018, https://www.bloomberg.com/news/articles/2018-04-25/jack-ma-says-nations-need-own-tech-to-sidestep-u-s-control.

[29] Alan Patterson, “Leaker of TSMC Secrets Joins SMIC as Co-CEO,” EETimes, October 17, 2017, https://www.eetimes.com/document.asp?doc_id=1332462.

[30] Sarah Dai, “Funding Squeeze Seen Coming for Nine in 10 AI Start-ups in China,” South China Morning Post, August 26, 2018, https://www.scmp.com/tech/article/2161387/investor-warns-day-reckoning-90-pc-chinese-ai-start-ups-funding-dries.

[31] “Internet industry encounters cold wave: Beijing office rents fell in the fourth quarter,” Caixin, December 26, 2018, http://companies.caixin.com/2018-12-26/101363762.html.

[32] The relevant passage states: “Any organization and citizen shall, in accordance with the law, support, provide assistance, and cooperate in national intelligence work, and guard the secrecy of any national intelligence work that they are aware of. The state shall protect individuals and organizations that support, cooperate with, and collaborate in national intelligence work.”

[33] Bing Xu はセンスタイムのコファンダー.同社は顔認識、画像認識、ビデオ分析、自律走行車、医療画像で世界1.2を争う。