【13】5Gを巡る中国政府の戦略(4)CCP(中国共産党)の世界5G標準戦略

DIBの提言書は、後者については「中国政府は5Gの企画・標準を重視する政策」をとったとした。具体的には、習近平の元で出された「チャイナドリーム」ビジョンと「Made in China 2025」ロードマップを指している。この中で、「CCP(中国共産党)の最優先事項である中国の社会安定と経済成長はAIと5Gの2分野により達成される」し、失敗は、中国政権に対する直接の脅威と見なされているとした。

中国製造(Made In China)2025 の政府ウェブサイト

本計画は2015年に発表されたものだが、「世界の工場」から「先端技術のトップ」へと転換しようとする中国共産党政府の強い意志が読みとれる。

習の「AIでの中国国家戦略」については、次の章で取り上げるため、ここでは5Gに限定する。先の提言書では、CCPは「5G世代への移行を、資本と労働集約型の製造経済からイノベーション主導経済への移行させる」絶好の機会と見ている。特に、現在の中国政府は「成長の鈍化」現象のなかにあり、また米国との貿易戦争の激化が中国経済に大きな負担となり、このために「5Gへの世代移行を積極的に追及する政策」が必要だった、と。

 

ファーウェイに保障されたモノ

規格や特許を重視したファーウェイには強さがでる。その一つは、所有する特許からの収入である。

これについて、ファーウェイが保有する5Gの特許の金銭的な価値は今のところ公開していないが、ライバル企業は公開しており、中には多額の収入を手にしている企業があることも分かる。たとえば、ノキアは技術のライセンス契約で2017年に売上高の約7%に相当する16億5000万ユーロ(現レートで約2,080億円)を稼ぎ出した。また、事実上、世界の全てのスマートフォンに保有する知的財産が使用されているクアルコムは直近の会計年度で技術のライセンス契約で52億ドル(現レートで約6,000億円)を稼いでおり、これは同社の売上高の5分の1を上回る額となる。

もちろん、ファーウェイもライバル企業の技術を使用するにはロイヤルティーを支払わなければならないが、一方で、相互相殺されるものも多い。IPリティックス(IPlytics)CEOのポールマン(Tim Pohlmann)は、ファーウェイは圧倒的な数の特許を保有しているため、各国政府が「ファーウェイの製品排除を行っても、同社の特許は使用しなければならなく、相当額の対価を支払うことになる」とし、ポールマンはこれを「保障された収入」と呼んだ。

実は、WSJ紙の調査で、別途の保障された「モノ」があることが明らかになっている。これについてWSJ紙は、「ファーウェイが最大750億ドル(約8兆2040億円)の国家的支援を利用し、ほぼ無名の電話交換機ベンダーから世界最大の通信設備メーカー」へと成長していたとした。内訳は、「支援で最も大きな部分を占めるのが、国営銀行から提供された約460億ドルに上る融資や信用枠」とした。また、「中国政府・地方政府が行うIT(情報技術)業界向けの優遇策によって2008~18年に最大250億ドルを節税している。その他、16億ドルの補助金や土地代の20億ドルの値引きなどもある」とした。

 

注:ファーウェイの反論

ファーウェイは文書をだし、「研究を支援するための“少額のささいな”補助金を受け取ったが、それは異例のことではない。また、IT業界向けの税制優遇措置など、支援の多くは他社も利用できるものだった」とした。

一方、WSJ紙は、ファーウェイはこれら中国政府の支援を武器に、顧客に寛大な融資条件や競合を30%も下回る価格を提供できた…(それが、ファーウェイの成長のもたらす、理由になった)、とした。WSJ紙の指摘が正しいか、それともファーウェイの指摘のどちらが正しいかが判明するには時間がかかろう。しかし、現時点でもCCPのもとにでたエコシステムは西欧の民主的な政府のもとでのものに比べて、企業は急成長を遂げることができる、と言えるかもしれない。では民主的な政府は今後これを上回るために、どのようなエコシステムづくりをすればよいか、は大きな課題となろう[1]。何れにしろ、本報告書を超えて用意する必要があろう。

 

なお、先にファーウェイは“少額のささいな”補助金を受け取ったとしたが、同紙は通信設備機器でファーウェイに次いで世界第2位のフィンランドのノキアが報告している同様の補助金の17倍、第3位のスウェーデンのエリクソンに至ると、同期間に計上した補助金はない、としている。

「米中関係を調査する米議会委員会」のウェッセル(Michael Wessel)委員長は「同社には商業上の利益がある一方で、そうした商業上の利益が国家によって強く支えられている」とした。また、同紙は、ファーウェイとCCPの関係を1990年代に遡って確かめている。これを注として示した。

 

注;ファーウェイと中国政府の関係[2]

  • WSJ紙の調査では、ファーウェイと中国政府の接点は1998年前後となる。当時、ファーウェイが脱税しているとの匿名の告発があった。同社の事業が低迷しており、本社がある深圳市の李子彬市長(当時)が同社の窮状をCCP政権呉邦国副首相(当時)にこの救済を訴えた。呉はファーウェイを民間企業とみなしていたが、最終的には監査チームを設けることに同意し、数週間後には疑惑を解消することができた、と。
  • これをきっかけに2000年代には、ファーウェイとCCP政権の関係は深まったとみられる…ただ、ここでも呉副首相や深圳市長、あるいはファーウェイといった中国側関係者はWSJ紙のコメント要求には応じていない。

 

[1] ファーウェイは狼経営としているが、かつての日本の会社人間づくりが良いのか、それとも…。

[2] https://jp.wsj.com/articles/SB11116437583125473536504586101500165500090